小説 【入れ替わり・恋人同士】③
-目次- ・7.試着室 ・8.彼女になりきって ・9.彼が買ってくれるの♡ 7.試着室 エレベーターを上がり、二人がたどり着いたのは―― 女性用ランジェリー売り場。 パステルカラーの照明に照らされた一角には、ブラやショーツ、ナイトウェア、スリップ…… いくつもの色と素材が美しく並んでいた。 フリル、レース、サテン、コットン。 誰かの“ため”ではなく、自分の“気分”を上げるためにある世界。 澪(精神は陽真)は、目を見開いたまま、口をぽかんと開けて立ち尽くした。 「……うわ……夢みたい……♡」 「ちょ……陽真、目がヤバいって……」 「ねえ、見て見てこれっ」 澪(精神は陽真)は小走りで売り場の中央にあるラックへ向かい、 白のレースで縁取られたピンクのブラとショーツのセットを手にとった。 「これ……すっごいかわいい。透け感が絶妙で……え、こんなのつけて生活してたの? えろすぎない?♡」 「う……それは……その、気分によって、ね……」 陽真(精神は澪)は顔をそらしながら小声で答えた。 その声の照れくささが、男の体から発されているのが、どうにも妙で愛おしい。 「ちょっと、試着……してみたいかも……♡」 「ちょ、今ここで? だめだよ……!」 「でもさ、これも“生活の一部”でしょ? 選ぶのも、つけるのも、楽しむのも……。だったら、ちゃんと知っときたいなって思ってさ♡」 「……っ……ほんと、変態だよね、あんた……」 「じゃあ、はるまくんも一緒に選ぼ? 俺のサイズ、あ、違う違う。アタシの体のサイズ、どれくらいがいいか教えてよ〜♡」 「うぅ……やめて、そうやって言われると、なんか変な気分になるから……」 「そっか♡ じゃあアタシ、自分の“体”で測って選んじゃうね♪」 「も、もう好きにして……」 -女性用ランジェリー売り場- 澪(精神は陽真)は、目をきらきら輝かせながら、下着の棚をひとつずつ眺めていた。 「すごい……こんなに種類あるんだ……色も形も、全然違うんだな……♡」 彼の目が止まったのは、深紅のレースが印象的な上下セット。 薄手のブラに、ショーツはサイドがリボンで結ばれている。 「……これ、エロい……!」 つぶやく声に、すでにテンションが滲んでいた。 隣で立っていた陽真(精神は澪)は、男の体で顔をしかめる。 「……ねえ、選びすぎ。ていうか、完全にそういう目で見てるでしょ……」 「えっ、そりゃそうでしょ? だって今、アタシ、女の子の体なんだよ? 女の子として、こういうの着れるのって……一生で一回きりかもしれないじゃん?♡」 「……だからって、エロ目線なのはやめなさい……」 「だってこれ見てよ? ほら、この黒いやつ。サイドが透けてて、下の毛が透けるレベルらしいよ?」 そう言って持ち上げたのは、黒の総レースランジェリー。 ブラもショーツも布面積が最小限で、指先に乗せたとたんフワリと透けていた。 陽真(精神は澪)は即座に顔を背けた。 「……それ、私がつけるの? ていうか、私の体でそれつけるの……?」 「もちろん♡ だってせっかくだから、一通りは着てみたいし〜♪」 にっこり笑いながら、澪(精神は陽真)はさらに商品を見つけていく。 「これ、スポブラ。若い子に人気だって。着心地重視らしいけど……胸が揺れなくなるから、ちょっと残念かなぁ……」 「いや、それは実用重視でしょ……」 「うん、でも形が潰れると色気も減るよねぇ……やっぱ、ぷるんってしてた方が、興奮するし♡」 「ちょっと、本当にやめなって……真面目に選んでよ、お願いだから……」 陽真(精神は澪)の声には、本気で恥ずかしがっているトーンがにじんでいた。 8.彼女になりきって その時だった。 「こんにちは、なにかお探しですか〜?」 後ろから、澄んだ女性の声がした。 振り向くと、そこには若くて綺麗な女性店員が立っていた。 長い髪をポニーテールに束ね、淡いピンクの制服が似合っている。 「あっ……いえ、あの……」 陽真(精神は澪)が口を開こうとした瞬間、 「彼女さん、すごくかわいいですね〜。肌も白いし、すごくお似合いになりそう♡」 店員のその言葉に、陽真(精神は澪)は固まった。 “彼女”と呼ばれたその瞬間、自分の中の「ズレ」がぐらりと揺れた。 (……ああ、そうだ。私は今、“男の体”なんだ……) 一方で、澪(精神は陽真)はすぐに店員に向き直り、にっこりと微笑んだ。 「え〜、ありがとうございます〜♡ 彼が下着見たいって言うから、ちょっと選んでみてて〜」 「えっ……!? ちょ、陽……」 陽真(精神は澪)は言葉を飲み込んだ。 男の声で「あ、ちが……」なんて言ったら、もっとおかしな空気になる。 だから、なんとか笑顔を作ってごまかす。 「う、うん。あ、オレが……その、選べって言ったから……」 なんとも不自然な口調になってしまい、心の中で頭を抱えた。 店員はにこやかに「お似合いのカップルですね」と微笑んで、そのまま去っていった。 二人は同時に小さく息をついた。 「……やめてよ、そういうフリすんの……」 「いや〜、けっこう自然だったよ? はるまくんも、ぎこちなかったけど頑張ってた♡」 「もう……」 ⸻ ◆ フィッティングルームのカーテンを開けると、澪(精神は陽真)はうれしそうに足を踏み入れた。 選んだ下着は、すでに数点、腕にかかっている。 「じゃ、ちょっと試してくるね〜♡」 ウインクなんかしながら、スカートの裾をふわっと揺らして入っていく。 陽真(精神は澪)はその背中を見送ったまま、心の中でため息をついた。 (……私の身体が、私じゃない誰かに……好き放題されてる……) 彼が悪気なく楽しんでるのはわかる。 むしろ、心底楽しそうに見える。 けれど――どうしても不安がよぎる。 このまま、“彼”がこの体にどんどん慣れていってしまったら…… もし、彼がこのまま“女”でいることを望みはじめたら―― (……私は、いつになったら……“私”に戻れるんだろう) そのとき、試着室の中からかすかに聞こえてきた。 「……あっ、これ、やば……ホックむずっ…… うわ、胸、こぼれそう……♡」 くすぐったいような、くねるような声。 陽真(精神は澪)は思わず耳をふさいだ。 でも、その声は確かに、自分の身体から出ているものだった。 試着室の内側は、思った以上に静かで、壁一枚向こうにいる澪(精神は陽真)の気配も遠く感じられた。 澪(精神は陽真)は、鏡の前に立ち、ゆっくりと深呼吸する。 「……さてと……♡」 手を伸ばし、ノースリーブのキャミソールを脱ぐ。 肌の露出が一気に増える感覚に、背中がぞくりとする。 胸を覆っていたブラのホックを指先で探りながら、試行錯誤すること数秒―― カチッと外れる音と同時に、ふたつの重みがふわっと解放された。 「……うわ……重たいな、これ……♡」 両手で支えながら、鏡の中の自分――澪の体――を見つめる。 白く、滑らかな肌。丸みを帯びた肩から、自然に流れるライン。 そして、両胸。左右に柔らかく垂れながらも、張りのある豊満さ。 澪(精神は陽真)は、無言でごくりと唾を飲んだ。 (ほんとに……これ、澪の体なんだな……♡) パンツにも手をかけ、スカートと一緒に脱ぎ下ろす。 下着の中から現れた“そこ”は、澪が言っていたとおり、少し体毛が伸びかけていた。 「そっか……まだ手入れ前だったんだっけ」 澪(精神は陽真)はどこか申し訳なさそうに笑いながら、そっと指先で太ももからなぞる。 敏感な肌に触れるたび、全身に電気が走るような感覚が広がった。 「やば……指先が熱くなる……これが、女の体か……♡」 ――興奮もあったがそれよりも、純粋な興味と驚きだった。 それから彼は、持ってきた下着の中から「黒色のレースのランジェリー」と「グレーのスポーツブラ」を取り出す。 どちらも、それぞれ違った魅力がある。 黒色のランジェリーは、透け感があり、身につけるだけで気分が変わる。 胸を少し強調し、鏡の中の“女の自分”が妙に色っぽく見えた。 一方のスポーツブラは、フィット感が心地よく、シンプルな快適さがあった。 胸の形が自然に整えられ、服の下でも目立たず、それでいて妙に安心感がある。 「……うん、どっちもアリだな♡」 目を輝かせながら、小声でつぶやいた。 9.彼が買ってくれるの♡ 数分後。カーテンが開いて、澪(精神は陽真)が出てきた。 「はるまくん〜♡ 二つとも、買っていい〜?」 ぶりっ子気味な口調で、笑顔を作って陽真(精神は澪)に話しかけた。 陽真(精神は澪)は、驚いたように目を見開いた。 「……え、ちょっと……その……買うの?」 「うんっ。どっちも、すっごく気に入っちゃって♡ 特に黒い方、エロ可愛くてやばかったよ〜」 嬉しそうに言いながら、袋に戻したランジェリーをそっと胸に抱える。 陽真(精神は澪)は眉をひそめ、顔を赤くして言葉を選んだ。 「でも……私の体で、そういう下着、っていうのは……正直、あんまり……」 「え〜、だってあたしの体に似合ってるんだもん。女の子なんだから、可愛い下着着るのが当たり前でしょ?」 「いや、でも私は……」 その時だった。 再び、先程声をかけられた女性店員が背後から現れた。 「あ、お気に召しましたか? どちらも人気ですよ〜。特にこちらの黒の方、夜も……楽しめるって評判なんです♪」 「ね〜、だよね〜♡」 澪(精神は陽真)は嬉々として店員に話しかける。 「彼がね、プレゼントしてくれるんだって♡」 唐突に“彼”と言われて、陽真(精神は澪)は目をそらした。 その顔は真っ赤だった。 「そ、そう……なんですか……」 「彼氏さんに下着選んでもらうって、ちょっと照れますけど、うれしいですよね!」 店員が優しく笑いかける。 「それに、このランジェリー、肌が白い方によく映えるし……彼氏さん、きっと夜までドキドキしっぱなしですよ♡」 澪(精神は陽真)が、「ふふっ♡ そうだったらいいなぁ〜♡」と返す。 それを聞いた陽真(精神は澪)は、ついに観念したように、肩を落とした。 「……わかったよ。もう……買えばいいでしょ……」 「やった♡ はるまくん大好き〜!」 -続く-
