『淫獣捜査 隷辱の魔罠』 第94話

第94話『疑問』 対面を果たした八祥さんは都心の夜景をバックにしてソファに座っていた。  両脇にはべらしたドレス姿の美女たちの肩に手を置いている彼は、着飾った彼女らとは対照的にヨレヨレのスーツを身に付けている。顎に生えた無精髭もあって俺以上に場の雰囲気に合っていないように感じられた。 (そういえば、あの施設でもそうだったな……)  着飾った紳士たちの中において、八祥さんは紛れ込んでしまった異物のように映っていた。それが彼のこだわりなのか、無頓着なだけなのか。なんとなくだが、俺には前者のように感じとれていた。  先ほどの乾杯は紫堂へ一杯食わせた祝杯と述べていた。彼もまたナナさんと同様に腹に抱えて紫堂のそばにいたのだろう。 (そして、紫堂の方も、それに気付いていながら手元に置いていたわけか……)  優秀な者であれば危険であろうとも手元に置いて活用する。それで生じるスリルすらも愉しんでいたのが容易に想像できる。  気になるのは今の八祥さんの立ち位置だろう。ナナさんのように明確に反逆した訳ではないだろうから、俺からすると彼が味方なのか判断が難しい。  何かしら情報を彼からえるとして、その前に立場だけでも明確にしておく必要があった。 「ところで……」 「あぁ、お前さんが最初に聞きたいことは分かってるぜ。今の俺の立ち位置は中立だ」  俺の言葉を最後まで聞かず、彼は早々に告げてきた。 「元々、あの女狐と違って首輪をはめられて飼われていた訳ではないんでね。いうなれば、協力関係という立ち位置なのさ」  有益な情報を仕入れてくること以上に、複数の情報から隠れた事象を判別する。分析官、相談役のような役回りを彼は求められていたようだ。  秘書のように紫堂のそばにいることも多かったナナさんとは違い、それ以外の時間は情報屋として自由にふるまえたというから、確かに違うようだ。  だが、そう言うわりには彼の表情は晴れない。言葉ほどに対等な立場ではなかったのか、なにか不満を抱えていたように感じられる。 「そんな訳で、ここにいる俺は情報屋としての濡羽 八祥だ。八咫などというヤツがつけた呼び名での立ち位置ではないことだけは最初に明言しておく」  地下施設でも八咫と呼ばれることを良しとしていなかった彼は、同時に情報屋という言葉に力を入れていた。それだけで、彼のプライドの置き場所がなんとなく察しられる。  ならば、情報を売りとする生業の今の彼なら、口にした言葉は信じても良さそうだ。  八祥さんから最初に聞きたい情報は前から決めていた。 「では、情報屋である濡羽 八祥さんに尋ねたい。俺は紫堂に関しての情報が欲しいんです」  俺の問いかけに、彼はしばし思案していた。そして、言葉を選ぶようにして質問を返してくる。 「潜入捜査をするにあたり、警察の資料に目を通していたのだろう? それに加えて米軍からの情報も得た上で、更に俺から欲しがる理由はなんだ?」  情報屋と名乗るだけあって八祥さんは、これまでの俺の行動も把握しているようだった。手にしたグラスをテーブルに置き、真剣な眼差しを向けてくる。  彼の心の中まで見通すような瞳には、前にもドキッとさせられていた。  だが、腹の奥に秘めていた欲望をさらけ出した今の俺は、その視線も正面から受け止められる。 (彼には素直に話すべきだろうな……)  同じくグラスをテーブルへと置いた俺は、この一ヶ月の間に考えていたある疑問を口にする。 「確かに情報は増えました……だからこそ、余計に混乱しているんです」  潜入前に駿河さんから手渡された警察で、紫堂の出生から国外脱出までの情報目を通していた。  そして、米軍基地では情報部集めたシンジゲート幹部として、彼が海外で暗躍してきた記録も得られていた。  女癖の悪さと女を食い物にした犯罪行為によって、警察と暴力組織に追われて海外に逃げ出した男。その後、国外にでた途端に華々しいほど裏社会で活躍して出世していくのだ。ノンフィクションの作品として書籍化でもすれば、良く売れそうな内容だった。  だが、情報を得ればえるほど地下施設で体験したこととの乖離が生まれる。  涼子さんから聞かされていた紫堂の話は、憎むべき性犯罪者で非情な人物といった印象であった。それは駿河さんの警察資料の内容ともほぼ同じだった。 (それだけど俺の感じた紫堂という人物は違って感じられた)  施設でナナさんから聞いた言葉の方が、俺の紫堂に対する印象に近いと感じられた。 『あの方は、自分に尻尾を振るモノにはビックリするぐらい寛容で、牙を剥くモノにはトコトン残酷。自分の欲しいモノがあれば我慢できず、まるで子供のように後先考えずに手を出すかと思えば、いろんな事に鼻が利き、特にお金を稼ぐのは天才的。神出鬼没で、人をモノやゲームの駒のように考え、時には自分の命すらチップにして、命がけのゲームを楽しむような悪趣味な変人ですわ!!』  そう文句を言いながらも、ナナさんはどこか楽しそう彼について語ってくれた。  巨大なエレベーターを野外に造って人を驚かせる変わり者な彼は、実際にタシギさんとして変装して潜入捜査してきた俺と涼子さんと同行してみせたわけだ。  悪質なイタズラの種明かしを楽しそうにしていた彼が、涼子さんの語っていた人物像とズレを感じる。  今も涼子さんを拐い、彼女を苦しめているはずだ。そんな紫堂を憎むべきなのだろうが、俺は彼に対していまだに親しみを抱いてしまっていた。 「それなら、俺の情報を聞くまでもない……その顔は、ほぼ答えを出しているのだろう?」  表情を曇らせる俺の様子を見ていた八祥さんは、大きなため息をついてみせる。 「俺が会ったのはここ数年の紫堂だが、ヤツは妙に人を惹きつけやがる。そんな魅力をもっていた男が、昔とは言え組長に暗殺者を仕向けられるなんてポカをしないだろうよ」  その事自体は、彼の台頭を快く思っていなかった若頭と組長の女による手回しの結果だったと紫堂も語っていた。  だが、その時に彼を擁護しようとする者が組織内には誰もいなかったと八祥さんは情報を付け足してくれた。  所属している今の海外シンジゲートでも、新参者の紫堂を良く思っていなかった幹部連中もいたらしい。だが、こちらでは手際よく処理していき邪魔者を排除した上で、ボスからも厚い信頼を得られているとの話だ。 (以前の失敗を糧にして、うまく立ち回ったと言えなくもないが……)  疑問に思う俺の意を汲んで、八祥さんは発言を続けた。 「さまざまな企業買収に裏社会での橋渡しと、世界中を飛び回って大活躍らしいぜ。小さな島国から羽ばたいて、随分と大化けしたもんだよなぁ?」  意味ありげに笑いかけてくる八祥さんに、俺はゴクリと生唾を飲み込む。  彼が言わんとしていることが、俺にも分かってきているからだ。だが、あまりにも荒唐無稽で口にするのがはばかれた。  額に浮かんだ汗から頬を伝い、顎先から滴り落ちる。それでも、俺は八祥さんを凝視したまま、彼の次の言葉を待った。 「なら、この情報は聞いているか?」  表情を強張らせる俺に対して、八祥さんは表情を崩して話題を変えてくる。 「各国の諜報機関が紫堂の首に大金を積んでいるんだぜ。もちろん、デッド・オア・アライブ……生死を問わずだ」  シンジゲート内で地位を高め、組織の勢力拡大に貢献する紫堂を各国の諜報機関が危険視しはじめたらしい。  彼の暗躍で実害がでるほどに賞金は跳ね上がり、各国が抱える工作員だけでなく、腕に覚えのある暗殺者たちも彼を狙いはじめた。  だが、裏社会に身を潜めた彼が姿を現すのは稀だ。暗殺するの容易なことではないだろう。  だからこそ、神出鬼没な彼を捕らえようと俺と涼子さんは危険な潜入捜査に挑んだのだった。 「三回だ……」  唐突に八祥さんが告げた数字に首を傾げる。そんな反応をしめす俺を楽しんでいるのか、彼は目を細めてニヤリと笑う。  焦された俺は、耐えきれずに言葉の続きを催促する。 「なにがです?」 「紫堂の暗殺成功が報告された回数だよ」 「……聞き間違いですか? 暗殺を実施した回数ではなく、暗殺成功って言いました?」  俺の予想に反して、暗殺自体は何度も実行されていた。しかも成功したのが三回と言われているが、情報が共有されてない件も含めれば、もっと数が増えそうだというのだ。 「いやいや、意味が分からない……」 「ヤツがいたイタリアのレストランを建物ごとまるまる爆破、搭乗していたプライベート機を戦闘機によって大西洋上で撃墜、最後にいたってはラスベガスで車から降りたところを、ライフル弾によって額が撃ち抜かれているぜ」  燃え盛るクラブハウスから生き延びた事を確認したばかりだ。彼の強運ぶりは理解している。  そういう意味では、先の二件を強運で逃れたことも考えられる。  だが、最後の一件に関しては、それだけでは説明ができない。 「たまたま居合わせた医師によって死亡が確認されているが、後頭部から脳漿をブチ撒いていることから死亡は明らかだな。その遺体も乗せた救急車ごと消えちまっているがな。そうやって、何度も紫堂って男は殺されては蘇っているわけだ」 「……影武者ですか」 「お前さんも、すでに見ているだろう?」  地下施設では、琴里と呼ばれていた女が紫堂に化けていた。医療用に開発した人工皮膚による変装は、本当の皮膚のように紫堂の顔をそっくりに再現していた。  そして彼自身もタギシという好青年に化けてみせて、まんまと俺と涼子さんを化かしてみせたのだ。 「正直、世界中を飛びまわる紫堂の活動を追っていくとスーパーマンでもないと説明がつかないことが多いんだぜ」 「それなら、わざわざ影武者を用意してたって事は、アレが本物……」 「そこで、お前さんの最初の疑問に戻るわけだ……アレは本当に紫堂なのか?」  バラバラだった紫堂という人物を描くピースが組み上がってきた。だが、肝心の彼に中核をしめす大事なピースが抜け落ちていた。 「俺は話していた彼は……誰なんです?」 「悪いが、アレが本当の紫堂かは、俺にもわからんよ。そもそも本物の紫堂が、まだ生き残っているのかも疑問だがな」  八祥さんが紫堂と出会ったのは、国外に逃亡した後らしい。その時の彼と比較することは出来ても、それが本物である確証は持てない。 「せめて、国内にいた時点で出会っていないとな……」  彼の言葉で俺はハッとする。脳裏には涙目になった涼子さんの顔が浮かんでいた。 『ありがとう。でもね、実際に会ったこともなく、薄暗い映像で見ただけの人物を、ちゃんと見分けられる? これは、取調べで何度も顔を合わせた私が適任なの』  潜入捜査の話を切り出した涼子さんを引き止めようとした俺に対して、彼女が告げた言葉だ。  あの時は人相合わせ程度にしか受け止めていなかったが、もしかしたら涼子さんなら紫堂が本物かを見分けられるかもしれない。  確信めいたものを感じる俺を、八祥さんは冷ややかな目を向けていた。紫堂が本物であるかどうかは問題の本質ではなかったのだが、その時の俺は気付いていなかった。  それを彼は告げず、黙ってグラスを手に取ると琥珀色の液体で喉を潤ませるのだった。 「さて、ここまでの情報は紫堂に健闘してみせたお前さんに対する褒美ということでタダにしてやる」 「つまり、ここからは……」 「もちろん有料だ。情報はそれ自体にも価値があるからな。言っておくが、俺は安くはないぜ?」  情報屋であることにプライドを持っているからには、そこで妥協はしたくないのだろう。  先ほどまでの問答によって彼が情報屋として有能であるのは確認できている。あとは、安月給のサラリーマンである俺に支払える金額であることを祈るだけだ。 (駿河さんに、あとで捜査の経費として申請できないだろうか……)  領収書を貰えないかと聞きそうになっている時点で、俺の感覚は小市民か抜け出せていないのだろう。  そしている間に目の前のテーブルに、横にいる玲央奈が取り出した真っ黒なカードが置かれていた。 「代金はこちらのカードで支払います」 「ブラックカードをご使用とは、流石は国民的アイドルというところか」  クレジットカードにもランクがある。一般的に目にする上位ランクのゴールドカード、その上に存在するのがブラックカードだ。  選ばれた者だけが手にできるランクであり、さまざまな特典を得ることができると噂で聞いている。  はじめて目にするブラックカードだが、玲央奈はそれで情報料を払おうとしているのだった。  慌てて止めようとする俺に対して、玲央奈は唇に人差し指を当てニッコリと笑うだけだ。  向けられた真摯な眼差しからは、彼女が全力で俺をサポートしようとする強い意志が伝わってくる。 (わかったよ、今、優先すべきがなんなのかを……)  出かかった言葉を飲み込み、今は玲央奈の好意を素直に受けいれることにする。  黙って頷く俺と玲央奈をやり取りを八祥さんは黙って見ていた。 「それともカードでの支払いがダメなようでしたら、現金を用意しますけど?」 「あぁ、これで十分だ。ただし、使用できるか確認はさせてもらうがな」  金額を聞かずに交わされる二人の会話に俺は内心ではヒヤヒヤしていた。はじめて経験する本物のセレブの買い物は、じつに胃が痛いものであった。  カードが使用できるか確認するために八祥さんが席を離れると、緊張がとけて全身からドッと汗が吹き出してくる。  そんな俺をハンカチを取り出した玲央奈が甲斐甲斐しく拭いてくれていた。  そんなひと時に割り込むように、懐から振動音が響きだす。  その音源がイクさんから手渡された紫堂の端末だと気づき、二人して険しい表情を浮かべる。  取り出した端末には、ビデオ通話を知らせる表示がされており、恐る恐るタッチすると小さな画面にはイクさんの顔が映し出された。 「んーと、こんな感じかな……」  相変わらずオットリとした表情を浮かべた彼女は、どうやらカメラの向きを調節している最中のようだ。手を伸ばした彼女が何かするたびに、彼女の顔とたわわな胸元で占められた映像がガタガタと揺れている。 「あら、もしかして、もう繋がっちゃってるのかしら?」  通話中になっていることに、ようやく気づいたようだ。慌ててカメラから離れると、恥ずかしそうに笑顔を浮かべてくる。 「うふふ、恥ずかしいわ」  恥ずかしそうに頬を染めて、ボブカットに揃えた毛先を指でいじくる。  ユッタリした口調もあって、つい和みそうになる姿だが、彼女の本質を知った今では、その笑顔の裏にある恐ろしさを感じ取ってしまう。 「安心してくださいね。先に述べたように経過報告するだけですわ」  笑顔を浮かべたイクさんが身体を反らして背後の光景を画面に映しだす。  そこには無骨なパイプベッドが設置されており、その上に横たわる涼子さんの姿があった。  媚薬漬けにされていた涼子さんは、裸体のまま大の字に拘束されていた。両腕、両脚、首に胴体と黒革の拘束具がからみつき、幾重ものベルトによってベッドに厳重に固定されている。  顔にも口枷つきのヘッドギアが装着されている徹底ぶりだ。今の涼子さんが自分の意志で動かせるのは指先ぐらいなものだろう。 「んッ、んんぅッ」  口元を覆う黒革の下で、激しい呻き声をあげる。 首輪を装着した三人の美女たちが彼女に群がり、指や舌を使っている愛撫しだしたからだ。  革ベルトを根元に巻きつけられた乳房がパンパンに膨張させられている。その白丘へとしなやかな指が走り、優しく揉み立てていった。  頂上では充血しきった乳首がリングピアスを輝かせながら勃起している。それをソフトクリームを舐める如く、女たちは舌で転がし、唇で挟みこんでは甘い刺激を送りこんでくるのだ。 「うふぅ……うむぅ……」 「媚薬が身体のすみずみまで染み込んで、何しても気持ち良いでしょう?」  赤毛の女がリングピアスに指をかけると、思いっきり引っ張ってみせる。  乳房が引き上げられ、乳首が痛々しいほど伸ばされてしまう。 「むぐぅぅーーッ」  無残に伸ばされ、千切れてしまいそうだった。  その痛みにキリリとした太めの眉が折れ曲がり、涼子さんの表情が歪む。だが、その叫びに次第に甘い音色が混ざり始める。 「今の彼女は、あらゆる刺激が快楽情報として脳に送られてくる状態ね。洪水のように押し寄せて、脳が肉欲で溺れちゃうわよ。その証拠に、さっきから股間からは潮を吹きっぱなしよ」  北欧少女が股間に埋めていた顔をあげれば、潮でビショビショに濡れた美貌が露わになる。彼女が指を肉壺に埋めると、グチョグチョと激しい水音が聴こえてくる。  拘束された涼子さんの裸体が指の動きに合わせて激しく揺れる。革ベルトがなければ激しく暴れているほどだ。強すぎる刺激が涼子さんを襲って、見開いた目からが涙が溢れ出していた。 「うぐぅぅぅッ!!」 「あんまり悠長にしてますと、紫堂さまが手を下すまでもなく壊れてしまいますわね」  涼子さんが零す涙を舐め取りながら、イクさんがこちらに向けてクスクスと笑う。  紫堂に涼子さんが壊させないように釘をさしたつもりだったが、その部下が勝手を暴走するのまでは止められなかったようだ。  ギリリと歯噛みする俺の前で、中継されていた映像はブツリと切断されるのだった。



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