小説 【入れ替わり・恋人同士】㉓

-目次- ・67.女性優遇 ・68.痴漢 ・69.下着姿でゆっくり 67.女性優遇 午後の業務も終盤に差し掛かったころ、澪(精神は陽真)は、パソコンと格闘しながら、ようやく社内資料の修正を終えた。まだ操作に不慣れなソフトもあるが、それでも最近は「澪としての働き方」にだんだん慣れてきた感覚がある。 ──でも、心は男なのに、女として働くって…なんか、変な気分だよなぁ…♡ そんなことをぼんやり考えていた矢先、近くを通りかかった上司が柔らかな声で声をかけてきた。 「島村さん、今日はもう定時だから、無理しなくていいよ。あがって大丈夫♡」 「あっ、はいっ♡ ありがとうございます〜♡」 反射的に、澪(精神は陽真)は少し高めの声でお礼を言ってしまった。 ──あっ、まただ。なんかこの声、クセになってきてる…♡ 自分でも気づかぬうちに、“女らしく”ふるまおうとするクセがつきはじめていて、それが不思議と心地よくもある。とはいえ、あくまで“演技”のはずなのに、最近では少し楽しくなってきてしまっている自分もいる。 ロッカーに向かいながら、澪(精神は陽真)はつぶやいた。 「……この体で入れるのも、もうちょっとだけか…病院で一週間ぐらいって言われたもんな…。」 そうつぶやいた表情には、残念そうな表情が浮かんでいた 68.痴漢 帰りの電車は、予想以上に混み合っていた。 「うわ……かなり混んでるじゃん……」 澪(精神は陽真)は、背の低い澪の身体でラッシュ時の電車に乗るのがこんなに大変だとは思っていなかった。周囲を取り囲むのはスーツ姿のサラリーマンたち。澪(精神は陽真)はつり革につかまろうとして背伸びをしたが、微妙に届かない。 電車は夕方のラッシュ直撃で、思ったより混んでいた。 澪(精神は陽真)は、なんとか吊り革につかまりながら、ギュウギュウと人に挟まれた状況に少し戸惑っていた。 「……せ、狭い……」 それまでスーツスカートに軽く興奮していた自分が嘘のように、今はただただ居心地の悪さに顔がこわばる。肩が何度も他人とぶつかり、バッグが太ももに食い込み、後ろから誰かの背中がぐいぐいと押しつけられてくる。 しかも。 「な、なんか、変に近くない?」 後ろにいた中年の男性が、なぜか密着しすぎている。満員とはいえ、明らかに肘の位置が低い。何かが、スカートの裾に当たっているような気がする――そんな「気がする」レベルの違和感だったが、それだけでも、澪(精神は陽真)は顔が赤くなっていくのを感じた。 (うわ……うわうわうわ、これ、痴漢だよな…) すぐに体を少しねじり、視線だけで後ろをちらりと見た。が、その瞬間、中年の男性が目をそらしたように見えた。 (やっぱり……!) もともと自意識過剰な性格でもなかったが、このときばかりは心拍が跳ね上がる。女の身体での電車通勤がこんなにストレスだとは思わなかった。 ――同時に、思った。 (女性って、電車に乗るたびにこんな思いしてるのか……?) それはただの怖さじゃなかった。悔しさだった。そして、悔しいくらいに、無力だった。 ようやく駅に到着して、電車のドアが開いたとき、澪(精神は陽真)は文字通り飛び出すようにホームに降り立った。 「……うぅ…俺、男に痴漢されたのか…」 肩を落として深呼吸を一つ。夕暮れのホームで、人波から少し離れたベンチに腰を下ろした。ようやくスカートの裾を整えながら、思わずつぶやく。 「なんなんだよ、……女の身体になって、初めて不快な気持ちになったな……」 その顔には、少し疲労と、そしてほんの少しだけ――屈辱感が混じっていた。 ⸻ 69.下着姿でゆっくり 澪(精神は陽真)は、満員電車での帰宅に少しぐったりしながら、ようやく澪のマンションにたどり着いた。 「ふぅ……今日も一日、よく頑張ったよ俺…」 スーツのジャケットとスカートをハンガーにかけながら、鏡に映る自分――いや、澪の体を見つめて思わずうっとりとする。シャツをたたみながらも、「この夢のような時間が後少しで終わっちゃうんだよな……」と心の中で残念に思ってしてしまうあたり、まだ「女性の体」になっていたいんだなと自覚する。 ひとまず下着姿になり、つぶやく。 「……澪は今日も残業か…」 時計を見ると、もうすぐ19時。澪(精神は陽真)は、下着姿でソファに座りながらスマホを開いて時間を確認する。 「俺の会社、忙しいもんな……って、元の体に戻ったら残業もしないといけなくなるのか…」 そう思いながら、つい憂鬱になる、ジュースを飲みながらテレビをつける。 ちょうどニュースでは「今日の都内は一部の鉄道路線で遅延が発生」と報じられている。 「……あー、澪、遅延も直撃したら…帰ってくるの絶対遅くなるな…」 そのとき、ふとソファの上で足を組み替えた拍子に、自分の格好に気づく。 「やっべ、澪の体で普通に下着姿でくつろいでた…♡こんなん痴女じゃん…♡」 独りツッコミを入れながら、思わず自分の下着姿に興奮してしまう。 -続く-



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