小説 【入れ替わり・恋人同士】㉒
-目次- ・64.解散 ・65. 七日目-金曜日- ・66.手作り弁当 64.解散 数時間たっぷりと遊んだあと、4人は少し疲れた笑顔を浮かべながらプールを後にした。 「はぁ〜、楽しかったわね♡」と澪(精神は陽真)が声を弾ませる。 「そうだな。たまにはこういうのもいいよな!!」と涼介も満足そうだ。 「うん、またみんなで来ようね♪」と麻美もにこやかに話す。 「時間も時間だし、そろそろ着替えよっか」と陽真(精神は澪)も腰に手を当てながら言った。 4人はそれぞれ男子更衣室と女子更衣室に分かれて着替えを済ませた。 更衣室から出たあと 陽真(精神は澪)は女口調のまま、少し恥ずかしそうに「もう、あの海パンなんて、絶対履かない…」とつぶやいた。 一方、澪(精神は陽真)はニヤつきながら「次は新しいビキニ着たいわね♡」とつぶやく。 駅に着くと、4人はそれぞれの帰路についた。 麻美と涼介は涼介のマンションの方へ向かうホームに向かった、澪(精神は陽真)と陽真(精神は澪)は澪のマンションへ。 「今日はありがとうね♡また、近いうちに会いましょ♡」と澪(精神は陽真)が涼介にたちに手を振る。 「おう、陽真も澪ちゃんも気をつけてな!!」と涼介も返し、麻美と共に去っていった。 陽真(精神は澪)は、心の中で「やっぱりこの体での外出は、まだまだ慣れないわ…」と呟きつつ、どっとした疲労を感じていた。 澪のマンションのドアを開け、二人はリビングへとはいった。 その日は、楽しい疲れを引きずりながら、二人ともシャワーを済ませた。その後の日常に戻る準備を整える。 陽真(精神は澪)は、シャワーを浴びながら心の中でそわそわしていた。 「まだ病院から連絡ないのよね……もう一週間経つよね…?、早く元に戻りたいんだけど…」 彼女の口調はいつもの明るさを欠き、焦りの色が隠せなかった。 「一刻も早く元に戻って、元の生活に戻りたい…」と、つぶやく。 その後、澪(精神は陽真)も続けてシャワーを浴びた。 一方で、澪(精神は陽真)はシャワーを終え、ふわっとしたタオルに包まれながら、どこかお気楽な様子だった。陽真(精神は澪)の焦りに気づくことなく、のんびりとリビングでくつろいでいた。 二人は早めに夕ご飯を済ませた。 やがて夜が更け、明日の会社のことを考えながら、二人はベッドへと向かった。 陽真(精神は澪)は、まだどこか落ち着かず、枕をぎゅっと握りしめてから眠りについた。 澪(精神は陽真)は、自然と深い眠りに落ちていった。 そんな二人の心は、明日への不安と期待、そして少しの戸惑いを抱えながら、静かに夜を過ごしていった。 65. 七日目-金曜日- 翌朝、澪(精神は陽真)はゆっくりと目を覚ました。窓から差し込む朝の光が心地よく、今日もまた、この“入れ替わり”の状態で出社するという現実を思い出す。 その後、すぐに陽真(精神は澪)も目を覚ました。その頃、澪(精神は陽真)はすでにクローゼットの前で着替え始めていた。 身支度を整えようとクローゼットの前に立った陽真(精神は澪)が、少し眠たげに声をかけた。 「ねぇ、もしかして…今日スカートスーツで行くの…?」 澪(精神は陽真)はニヤつきながら首を縦に振り、少し嬉しそうに言った。 「入れ替わってから、ずっとパンツスーツだったから、一度スカートスーツ履こうかなって思って…♡」 陽真(精神は澪)は心の中で『陽真は私の体でスカートとか気にしないから…仕事の時はパンツスーツで行って欲しいんだけど……』と思いながら、顔には渋い表情を浮かべる。 「……下着見えないように気をつけてよ…」 そう言って渋々了承するものの、どこか心配そうに澪(精神は陽真)の様子を見つめる。 澪(精神は陽真)はにやっと笑い、軽く頷くとスカートスーツを取り出した。落ち着いたネイビーのジャケットと、ひざ丈のスカート。 「やっぱり、アタシにはスカートが似合うわね…♡」 そう言いながら、スカートスーツに着替える澪(精神は陽真)を見て、陽真(精神は澪)は内心で『だから、何度も言うけど…あんた男でしょ……』と不満そうな顔をした…。 その後、簡単に朝ごはんを済ませて、二人は出社した。 澪(精神は陽真)は、オフィスのビルの中を歩きながら、スカートスーツの感触に少し心が浮き立っている自分に気づいた。 入れ替わってからはパンツスーツでビシッと決めている彼が、今日は女性らしいスカートのラインに包まれている。膝にかかるスカートの裾がさりげなく揺れるたび、胸の奥にこみあげる不思議な高揚感。 「なんか、スカートで出社するの興奮するな……♡」 そう呟くと同時に、周囲の視線も少し気になり始めた。何人かの同僚がこちらをちらりと見ているような気もして、優越感とともに一瞬の緊張感が胸を走る。 「さっさと職務室に向かうか…♡」 そう思いながら、澪(精神は陽真)は自然と背筋を伸ばし、凛とした姿勢で自分の職務室のデスクに向かった。 スカートの裾を整えながら、内心で小さな優越感を噛みしめる。 朝、スカートスーツ姿で颯爽と出社した澪(精神は陽真)は、自分の姿をガラスに映してはニヤつきながらエレベーターに乗り込んだ。 「ふふ、今日のアタシ、ちょっとできる女っぽいんじゃない…?♡」 社内に入ると、すれ違う同僚の男性たちがちらちらと視線を送ってくることにも、内心でガッツポーズ。 (やっぱりスカートって武器だなあ。パンツより断然、視線集まってるし♡) そんなテンションのまま、自席に座ると── 「……ふう♡」 座った瞬間、澪(精神は陽真)は気づかぬうちに脚をやや大きめに開いていた。 完全に“男座り”。 (……あ、涼しい。っていうかスカートって風通し良すぎて逆に不安になるな♡) 周囲では数人の男性社員が、ちらりちらりとそわそわした目で見つつも、言い出せず、こっそりと目をそらす。 女性社員の中にも、苦笑いを浮かべながら内心で「また島村さん変なテンションなのかしら……」とざわついていた。 そこに、同期の杏里がコーヒー片手にふらりとやって来た。 「……澪!ちょっと、耳かして…」 杏里が不意に顔を近づけてきて、澪(精神は陽真)耳元に囁いた。 「……澪ってば、足……開きすぎ。パンツ、見えてるわよ…」 一瞬、時が止まった。 「……っッッ!!?!?」 澪の中身が完全に男であることなど当然知らない杏里は、心配そうに微笑みながら続ける。 「最近ちょっと浮かれてる感じだけど、女子として気をつけなよ。見られてるよ?」 「えっ、うそ、ごめん…ありがと…♡」 小声でそう返しつつも、顔面は真っ赤。心の中では悲鳴をあげていた。 (やばっ…♡色んな人にパンティ見られちゃった…♡) しかしその一方で── (……ちょっとこういうエッチなハプニングも悪くないなって思ってる俺もいる♡) 澪(精神は陽真)は、杏里が耳元で囁いた言葉の余韻に、じわっと股が湿っていた。 「私たち、付き合ってるんだから。あんまり、他の人に見せたら……イヤだよ?あ、それと今日お昼ご飯弁当作ってきたから、一緒に食べよ♡」 小声でそう言われた瞬間、背筋がピンと伸びた。 (……あ…。そうだ…、プール行ってて頭から抜けてたけど…俺杏里ちゃんに告白されたの忘れてた…。) 混乱しそうになる頭を押さえながらも、とりあえず表面上は笑顔で切り返す。 「あ、ありがと、杏里。お弁当も……すごく嬉しい♪」 「うん! ふたり分ちゃんと作ってきたよ。今日は卵焼き、甘めにしてみたんだ〜♡澪、甘い卵焼き好きだったよね…♡」 周囲の同僚たちはパソコンに向かっているふりをして、こっそり二人の様子に耳をそばだてているようだった。 (まずい……職場恋愛ってバレたら、なんか妙に騒がれそう……しかも女同士だし…) 澪(精神は陽真)は、内心ハラハラしながらも、とりあえず昼休みは杏里の“手作り弁当”を受け入れることにした。 「じゃあ、お昼は会議室Dで……先、待ってるね?♡」 杏里が微笑んで去っていく。その背中を見送りながら、陽真(精神は陽真)は後ろ姿を見ていた…。 (……杏里ちゃん…ガチレズじゃん………) 66.手作り弁当 午後の業務が一段落した頃、社内に軽やかなチャイムの音が鳴り響いた。 (やっと休憩……♡) 澪(精神は陽真)は椅子にもたれながら、短い一息をついていた。業務は簡単だが、緊張しながらも“澪として”一日働くのは、慣れない体力と精神力の消耗が地味に重い。 そんなとき、背後からふわっと香る甘い匂いとともに、明るい声が響いた。 「澪〜。迎えに来ちゃった♡」 振り向くと、そこにはニコニコと笑顔を浮かべた杏里が立っていた。 社内では珍しいくらい自然体な笑顔。しかも、弁当バッグを両手で抱えている。 「えっ、会議室Dで待ち合わせじゃなかったの?」と澪(精神は陽真)が戸惑うと、杏里はちょっとだけ頬を赤らめて言った。 「だって……澪と少しでも長く一緒にいたくて♡席まで来ちゃった♡」 (……思ったよりガチだった…) 一瞬固まったが、すぐに笑顔を作って「そ、そっか。じゃあ、一緒に行こっか♡」と言いながら立ち上がる。 周囲の社員がこっそりこちらに視線を向けているのを感じながら、できるだけ自然に。 ふたり並んで会議室Dに向かう廊下。 会議室Dに入りドアを閉めると、杏里はさっそくテーブルに弁当を広げ始めた。 「はい、今日のメニューは、煮込みハンバーグと、ほうれん草のおひたしと、出汁巻き卵と……えへへ、ちょっと張り切っちゃった♡」 「うお……♡」思わず声が出る。 仕切りのあるランチボックスには、まるでお店のテイクアウトのようにキレイに詰められたおかずたちが並んでいた。杏里の料理はどれも美味しそうだった。 (まじか……オレ、こんなレベル高い弁当、人生で食べたことないかも♡…澪は料理そこまで好きじゃないし…) 「澪の好み、頑張って思い出したんだよ?♡」 にっこり笑う杏里に、澪(精神は陽真)は少しだけ罪悪感を覚える。 (澪中身、別人でごめんな……) とはいえ、目の前のご飯は本気で美味しそうだったので、箸を持ちつつ素直に言った。 「杏里、ほんとに料理上手だね♡……すごい♡」 「えへへ、ありがと♡澪、いっぱい食べてね♡」 ——午後の会議室は、ほんのり出汁巻きの香りが漂っていた。 杏里の料理は本当に美味しかった。 しばらく二人は話しながらゆっくりと過ごし、自然な空気が流れていく。 杏里はふと目を細めて、「今日も一緒にいてくれてありがとう♡」とぽつりと言った。 澪(精神は陽真)はその言葉に少し胸が痛くなり、ぎこちなくも「こちらこそ」と答えた。 改めて、自分が後先を考えずに行動してしまったことを澪(精神は陽真)は、今更悔やんだ…。 杏里は少し恥ずかしそうに、でも真剣な表情で澪(精神は陽真)を見つめた。 「ねぇ、……キスしてくれない?」 その言葉に澪(精神は陽真)は、一瞬心臓がドキリと高鳴るのを感じた。慌てて顔をそらしそうになるけれど、杏里の瞳の真剣さに、素直に目を合わせる。 「そ、それって……今?」 「うん、今して欲しい。澪昨日も有給取ってたし、少しの間会えなかったし……なんていうか、寂しいの…」 澪(精神は陽真)は内心、少し混乱しながらも、杏里の気持ちを大切にしたいと思い、そっと顔を近づける。 しかし、入れ替わっている身体の澪のことが頭をよぎり、心のどこかで躊躇いもあった。 「……じゃあ、一回だけだよ…」 そう言って二人はゆっくりと唇を重ねた。そこにはぎこちなさもあったけれど、確かな温もりがあった。 澪(精神は陽真)は完全にペースを乱されていた。 「(どうする俺……いやアタシ……じゃなくて俺……!?)」 ぐるぐると脳内を巡る混乱。 杏里はそっと身を寄せてきたが、その距離でふと、澪(精神は陽真)は我に返る。 杏里はふっと笑い、「澪、好きだよ」と言った。 こうしてランチタイムは終わっていった。 -続く-
