小説 【入れ替わり・恋人同士】⑲

-目次- ・55.告白 ・56.澪の感情 ・57.六日目-木曜日- 55.告白 澪(精神は陽真)は一瞬緊張したが、うなずいて促した。 「うん、どうぞ」 杏里は深呼吸をひとつしてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「急にあんなことされて、正直びっくりしたの。私、彼氏とキスする時より、ずっとドキッとしたかも……」 言葉には迷いもあったが、その正直な気持ちがにじんでいた。 「なんだか、思ってたのと違って……でも、悪い意味じゃなくて」 杏里は澪(精神は陽真)の目を見つめ、すこし恥ずかしそうに微笑んだ。 澪(精神は陽真)もその気持ちを受け止めるように、静かにうなずいた。 「ありがとう、話してくれて」 二人の間に、これまでとは違う少しだけ特別な空気が流れ始めていた。 澪(精神は陽真)はカップに残ったコーヒーをひと口すすると、杏里の視線がじっと自分に向けられていることに気づいた。 「……もう一つ、言いたかったことがあって」 少し声が揺れている。杏里は、迷いながらも決意を固めたような顔で、ぽつりと続けた。 「実は……昨日、彼氏と別れたの」 澪(精神は陽真)は、手元のカップをゆっくりとテーブルに置いた。澪の顔をしたその表情に、驚きが浮かぶ。 「えっ……それって……」 杏里は視線を落としながら、小さく笑った。 「ううん、澪のせいじゃないの。前から、なんとなく違うなって思ってた。でも……澪とキスした時、すごく不思議な気持ちになったのを忘れられなくて…」 澪(精神は陽真)は何も言えずに、ただ杏里の言葉を聞いていた。 「それでね……気づいたの。私……たぶん、澪のことが好きなんだって」 カミングアウトというには、あまりに静かで、優しい声だった。 「いままで気づいてなかっただけなのかもしれない。でも……あのときのドキドキは、演技でも勘違いでもなかったと思うの」 杏里は、少しだけ不安そうに陽真の表情をうかがった。 「……変かな、私」 陽真は、澪の体で静かに首を振った。 「……変じゃない。むしろ、嬉しいよ…」 ふと、澪として過ごす中で感じた数々の「女性としての感覚」や「思わぬ気づき」が胸をよぎる。 相手が誰であれ、正直な気持ちに目を向けること。それは、簡単なようでとても難しいことだと、いまならわかる気がした。 「ありがとう……聞いてくれて」 杏里は、少し涙ぐんでいたが、その顔にはどこか安心したような安堵もあった。 杏里の言葉を聞いた澪(精神は陽真)は、しばらく黙っていた。 コーヒーの香りも、スイーツの甘い残り香も、部屋の静けさに溶け込んでいた。 やがて杏里が、そっと口を開いた。 「……やっぱり、今日呼んでよかった」 「うん。話してくれてありがとう。ほんとに」 澪(精神は陽真)の中では、いろんな感情がせめぎ合っていた。 自分は今、澪の体。けれど、自分自身の心は男だ。 杏里の真剣な気持ちは本物で、それをどう返すべきか答えが見つからなかった。 そんなとき―― 杏里が、そっと体を乗り出してきた。 気づいたときにはもう遅く、杏里の手がテーブルの上に置かれた澪(精神は陽真)の手に重なる。 そのまま、ゆっくりと顔が近づいてきた。 「ごめん……でも、今の澪には……こうしたくなっちゃう」 杏里の言葉は、震えていた。 そして――そのまま唇が重なった。 軽く、けれど明確な想いのこもったキスだった。 触れた唇の温度に、澪(精神は陽真)は瞬間的に目を見開いた。 しかし杏里は、迷いなくもう一度、今度は少し深く唇を重ね舌を捩じ込んできた。 「……杏里……」 声を出したつもりだったが、うまく音にならなかった。 唇が離れたあと、杏里はほんの少しだけ照れたように笑った。 「……私、こうしてみて、もう確信したの。ごめん、澪……いや、今の“あなた”がどう思ってるか分からないけど……私、本当に……あなたが好き」 澪(精神は陽真)は、一瞬で答えを出せなかった。 それでも、杏里の気持ちは痛いほど伝わっていた。 杏里の言葉は、まるで時間の流れを止めるような重さを持っていた。 「……私、澪と、ちゃんと関係を持ちたいと思ってるの…女の子同士だけどダメかな…?」 その一言に、澪(精神は陽真)の中で何かが固まった。 静かに打っていた心臓が、一瞬、大きな音を立てて鼓動する。 (……関係って……それって、どういう意味なんだ……?…今の俺は澪だし…女の子同士だし…??) 杏里の表情は真剣で、迷いはなかった。 けれど、澪(精神は陽真)の中には答えきれない混乱と焦燥が渦を巻いていた。 「えっ、えーっと……ちょっと、ごめん…トイレ借りてもいいかな……?」 思わず席を立った。 杏里は恥ずかしそうに目を逸らしたが、すぐに「うん…」と頷いた。 澪(精神は陽真)はそのまま、部屋を出て、静かにトイレの扉を閉める。 鏡の中には、少し火照った顔の“澪”が映っていた。 「……やばいって、マジで…どうしよ…」 ひとりごとのように漏れた声は、澪の声をしていたけれど、心はまぎれもなく“陽真”だった。 (杏里ちゃん……本気なんだ。俺のこと、澪だって思って……) 澪の身体を借りているこの状況で、それ以上の関係に踏み込むことはできない。 どんなに杏里に好意があっても、それは「俺」じゃなく、「澪」との関係だ。 「俺、なにやってんだよ……」 ふぅ、と大きく息を吐く。額ににじむ汗を手でぬぐいながら、澪(精神は陽真)は自分に言い聞かせた。 (ちゃんと断らなきゃ。これは、オレの勝手な遊びじゃない……) 洗面所の静けさが、少しだけ思考を整理させてくれた。 やがて、澪(精神は陽真)は鏡に向かってもう一度深呼吸し、扉の向こうにいる杏里に対してどう話すべきか――言葉を選びながら、部屋へ戻ろうとした。 澪(精神は陽真)は、洗面所の鏡の前でしばらく自分の表情を見つめていた。 (杏里ちゃん、ほんとに真剣だったな……。 でも、俺は今、澪の体で……杏里ちゃんは澪を好きになってるんだよな) 複雑な感情が胸の中で渦巻いていた。 けれど、その渦の中に、ほんの少しだけ――「ドキドキする」という感情があったのも事実だった。 (百合って、こういうことか♡……いやいや、俺の中身は男なんだから、違うのか…?) 思考を打ち消そうとするが、鼓動がやけに早くなっているのがわかる。 動揺、興奮、そしてどこかくすぐったいような好奇心。 澪(精神は陽真)は、深呼吸をひとつして、リビングへ戻った。 杏里は心配そうにソファに座っていたが、澪(精神は陽真)と目が合うと、さらに不安そうに微笑んだ。 「……ごめん、変なこと言っちゃって…私気持ち悪いよね…」 「いや、そんなことない。……むしろ……うれしかった、かも」 自分でも、自分の声が少し震えているのがわかった。 杏里が驚いたように顔を上げる。 澪(精神は陽真)は、心臓の鼓動が耳まで響くのを感じながら、言葉を続けた。 「……あのさ、今日のこととか……全部びっくりしたけど。 それでも、杏里が本気で話してくれたの、すごく伝わったし……」 言葉を選びながら、澪(精神は陽真)は自分でも信じられないことを口にしていた。 「……もしよかったら……付き合ってみる?」 澪(精神は陽真)はダメだとわかっていたが、目の前の、彼女の同僚の女の子と百合の体験をしてみたいと言う男性の下心に飲み込まれてしまった。 杏里の目が一瞬で見開かれ、沈黙が訪れた。 だが、すぐに彼女の頬が紅く染まり、ほっと息をつくように笑った。 「……ほんと? ふふ、嬉しい……!♡」 その笑顔に、澪(精神は陽真)の胸の奥で、別のドキドキが生まれた。 澪(精神は陽真)は杏里の真剣なまなざしを受け止めながら、心臓の鼓動が少し速くなるのを感じていた。彼女の手がそっと頬に触れ、ゆっくりと距離が縮まる。 澪(精神は陽真)には、澪と杏里二人に申し訳ないと思う気持ちと、抑えられない男性としての欲望や興奮が混じっていた。 目の前で杏里はキスをしたそうな顔をしている。澪(精神は陽真)「いいよ」と小さな声で答えると、杏里は嬉しそうに微笑み、優しく唇を重ねてきた。 その感触はさっきよりも柔らかく温かく、普段感じたことのない不思議な感覚が全身を包み込む。澪(精神は陽真)は戸惑いながらも、そのやわらかな唇の動きに引き込まれていくのを感じていた。 やがて、キスが終わると杏里は恥ずかしそうに笑いながらも、目を輝かせていた。 「ありがとう……澪…好きだよ…♡」 澪(精神は陽真)はその言葉に胸が温かくなり、これからのことを考えながら、複雑な感情を抱えつつも少しだけ憂鬱な気持ちが芽生えていた。 杏里は少し恥ずかしそうに目を伏せてから、澪(精神は陽真)真の目をじっと見つめた。 杏里は優しく微笑みながら、ふと口を開いた。 「今日はもう解散しよっか。色々話せてよかったけど、お互いにゆっくり休んだほうがいいよね。」 澪(精神は陽真)も、頷きながら少しホッとした様子で答えた。 「うん、そうだね。ありがとう、杏里。」 二人は立ち上がり、帰る準備を始める。すると、杏里がちょっと照れくさそうに小さな声で言った。 「ねえ、お願いがあるんだけど……♡」 澪(精神は陽真)は少し顔を向けて、少し戸惑ったような眼差しで杏里を見る。 「何?」 杏里は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、続けた。 「これからも、たまにこうして話せたら嬉しいなって……お願い♡」 澪(精神は陽真)は、その言葉に温かい気持ちがこみ上げてきて、微笑みながら答えた。 「もちろん。私もそう思ってるよ。」 二人の間に、これから少しだけ続くかもしれない新しい関係の予感が静かに広がっていった。 杏里は少し恥ずかしそうに、さらにもう一つお願いがあると小声で言った。 「それと、もう一つ……澪の下着と私の下着、交換してもらえないかな?♡」 澪の体の陽真は驚いて顔を見合わせる。 「え? 下着を交換?」 杏里は頷きながら、照れくさそうに笑った。 「うん、なんだかね……澪の匂いとか雰囲気が好きで。もし良かったら、今日履いてる下着を少しだけ貸してほしいなって思って♡」 澪(精神は陽真)は一瞬考え込んだが、そのお願いに、性的な意味が込められてることに気づき少し興奮して了承した。 「いいよ…♡じゃあ、今二人が履いてるパンツ取り替えっこしよっか…♡」 杏里は嬉しそうに笑いながら、少し照れた様子で顔を伏せながら言った。 「ありがとう♡でもパンツ脱ぐの見られるのは、まだちょっと恥ずかしいから……♡先に脱衣所でパンツだけ脱いでくるね♡」 澪(精神は陽真)は、その言葉に胸がドキドキしながらも、少しニヤついて答えた。 「うん♡」 杏里はすぐに脱衣所へと向かった。澪の体の陽真は少しソワソワしながらも、その場で待っていた。 杏里は脱衣所から戻ってくると、恥ずかしそうに笑って澪(精神は陽真)に言った。 「次は澪が脱衣所でパンツを脱いできてくれる?♡」 澪の体の陽真は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、嬉しそうニヤニヤして頷いた。 「うん…♡パンツ脱いでくるから待っててね…♡」 ゆっくりと脱衣所へ向かい、パンツを脱ぎながら自分の姿を鏡で確かめる。少し照れくささを感じながらも、興奮は最高潮に達していた。 パンツを脱ぎ終えると、澪の体の陽真はリビングへ戻った。杏里は恥ずかしそうに笑顔で迎え、ふたりの間にほんのりとしたエロティックな空気が漂っていた。 杏里は恥ずかしそうに目を伏せながら、さっきまで履いていた白色のパンツをそっとを澪(精神は陽真)に手渡した。 「杏里がさっきまで履いてたパンティ…♡」 澪(精神は陽真)はわざとエッチな言葉を口にながら、興奮した手つきで杏里のパンティを受け取る。 「じゃあ…アタシのパンティもはい…♡」 そう言って、自分のパンティを杏里に手渡す。 二人はその場でお互いのパンティを着用し合った。澪(精神は陽真)は、彼女以外の下着を身にまとった感触に背徳さと興奮を感じてしまい、思わず顔が赤くなる。 「なんだか、女の子同士でパンツ交換するのってドキドキするわね……♡」 そう呟きながらも、ふたりは笑い合い、その時間を楽しんでいた。 杏里の家を出る頃には、時計の針はもうお昼を回っていた。外は穏やかな午後の陽射しに包まれ、澪(精神は陽真)は少し名残惜しそうな表情を浮かべていた。 澪の精神が知らないところで、とんでもない状況になっていることを本人はまだ知る由もなかった…。 56.澪の感情 澪のマンションの最寄り駅に着くと、澪(精神は陽真)は今更になってどこかそわそわと落ち着かない様子で、心の中で何度も言葉を繰り返していた。 「杏里ちゃんとのこと、澪にどう説明しよう……」 ドアを開けてマンションのロビーに入ると、そこにはなんと陽真(精神は澪)が心配になり待っていた。 陽真(精神は澪)そんな澪(精神は陽真)の背中を見て、ふと静かに言った。 「おかえり…で、どうだった…?」 澪(精神は陽真)は少しだけ深呼吸をして、ゆっくりと頷いた。 「うん……ちょっと複雑でさ。でも、話さなきゃいけないよな。」 澪(精神は陽真)は言い出せずに、無言でマンションのエレベーターへと向かって歩き出した。 「で、どうだったのよ…?」 澪(精神は陽真)は軽く息をついてから、落ち着いた様子で答えた。 「部屋に戻ってから話すな。」 二人はそのままエレベーターで澪の部屋の階に向かい、澪の部屋に着いた。 沈黙が少し続いた後、澪(精神は陽真)が申し訳なさそうだが、どこか軽い感じ雰囲気で切り出した。 「……実は、杏里ちゃんと付き合うことになった…♡」 陽真(精神は澪)は顔を真っ赤にして、激しく声を荒げた。 「何よそれ!!なんで私に相談しないの!?勝手なことばかりしないでよ!!」 怒りと驚きが入り混じったその声に、澪(精神は陽真)は俯きながらも覚悟を決めたように答えた。 「……ごめん、でも杏里ちゃん真剣だったし…勇気出してくれたの伝わってきたから断れなくて…。」 二人の間に緊張した空気が漂いながらも、これからどう向き合っていくのか、静かに考え始める時間が流れていった。 澪(精神は陽真)が顔を少し赤らめながら、小声で続けた。 「それから……パンツも交換しちゃった♡……杏里ちゃんがどうしてもって聞かなくて…♡」 陽真(精神は澪)その言葉に思わず唖然とし、目を丸くした。 「はあ!? パンツを交換!?なにそれ、マジでなにしてんの!?そんなの私が変態みたいじゃん!」 さらに怒りが込み上げてきて、声を強める。 「私、レズじゃないんだからね!付き合ったって話しだけでも頭痛いのに…!!」 陽真(精神は澪)は声を荒げながら、澪(精神は陽真)を睨んだ。 しかし澪(精神は陽真)は、顔をほんのり赤くしながら少し照れくさそうに、どこか興奮を隠せない様子で言った。 「でもさ、杏里ちゃんのパンティを履くの……かなりドキドキして、ちょっと興奮してる♡……。」 その発言に陽真(精神は澪)は目を見開き、本当に信じられないといった表情でさらに澪(精神は陽真)を睨みつけた。 「私の体で勝手なことしすぎだよ…!!」 沈黙が流れたあと、陽真(精神は澪)はバンと机を叩いて立ち上がった。 「もう、私こんな生活耐えられない……」 と言い残して、泣きながらマンションのドアへと走った。 ドアを開けると、陽真(精神は澪)は外に出で行ってしまった。 澪(精神は陽真)は、その背中を見送りながら複雑な気持ちを胸に抱えていた。 二人の距離と心は、静かに離れていった。 その晩、陽真(精神は澪)は結局マンションには戻ってこなかった。 澪(精神は陽真)は、申し訳なさとモヤモヤを抱えながらも、ひとりキッチンに立ち、棚を開けて中を覗く。 「……はあ…やっちゃったな…」 澪の体で溜息をついた陽真は、目に留まったカップ麺を手に取る。一つ、二つ、三つ。 「澪の気持ち全然考えれてなかったな…」 お湯を注いで、ソファに腰を下ろす。テレビの音が部屋に広がる中、もくもくとカップ麺を食べ続けた。女性の体でカップ麺を三つも食べたせいか、途中からお腹がきつくなってきた。 「うっ……色々しんどいな……」 ぽんとお腹をさすりながら、陽真は反省の色でぼんやり天井を見つめた。 その夜、澪(精神は陽真)はひとり静まり返ったマンションの中で、ソファに深く腰を沈めていた。テレビはついていたが、何の内容も頭に入ってこない。照明の光だけが部屋をやわらかく照らしている。 「……澪帰ってこないな……」 そうつぶやきながら、空になったカップ麺の容器を3つ重ね、テーブルの端に寄せた。お腹はまだ少し重たい。けれど、心のほうがもっと重たかった。 携帯で何通か謝罪のメッセージを送ったが、 既読になっても返信が帰ってくることは無かった。 ベッドに入る気になれず、机に突っ伏して寝ようとしたが、なかなか眠れなかった。 一方その頃—— 陽真の体の澪は、駅近くのネットカフェの狭いブースで丸まっていた。備え付けの毛布を被って、薄いマットの上に横になる。 「……陽真ってば、いつも勝手なことするんだから……」 そうぼやきながらも、怒りと悲しみと、ちょっとだけ心配が入り混じった気持ちを抱え、浅い眠りについた。 ⸻ 57.六日目-木曜日- 早朝の四時頃、まだ日が完全に昇りきる前。 玄関のドアが静かに開く音がした。 澪(精神は陽真)はリビングの机で寝ていたみたいだったが、その音に気づき、ふと顔を上げる。 「澪……おかえり…」 そこに立っていたのは、少しだけ疲れた顔をした陽真の体の澪だった。 「……ただいま…」 沈黙が数秒だけ流れる。そのあと、陽真(精神は澪)が、ゆっくり口を開いた。 「ごめん、昨日は……怒りすぎたかも…」 澪(精神は陽真)が言った。 「ううん、昨日は100%俺の方が悪いよ…杏里ちゃんのこと本当にごめん……」 お互いに、顔を見合わせて、誤りあった。 「……杏里のことは時間を作ってもう一回話そ…」 「うん…ありがとう…わかった」 ひとまず、昨日の話題はそこまでにして、二人は軽く朝食をとることにした。 気まずさも、わだかまりも、まだ残っていた。 澪のマンションに、ほんのりと朝日が差し込む。 キッチンでは、澪の体に入っている陽真が珍しく朝ご飯の支度をしていた。 一方、珍しくリビングのソファでボーッとしていた陽真(精神は澪)は、うつむいたまま手に持った陽真のスマホの予定表をぼんやりと見つめていた。次の瞬間、顔がピクリと動く。 「……あ」 陽真(精神は澪)が声を漏らした。 「今日……プール行くって約束してた日だよね…?」 沈黙。 少し前に陽真の大学時代の友人の涼介と、涼介の彼女の麻美とプールにいく約束をしていたのを忘れていた。有給は二人ともとっていたがドタバタしていたので直前まで忘れてしまっていた。 お互い、同時に相手の顔を見た。 「やば……確かに今日だったよな…どうする?」と、澪(精神は陽真)が眉を下げた。 「涼介も麻美ちゃんも、今日めっちゃ楽しみにしてたよな…?」 「いや、そうだけど……私、……この陽真の体で、水着はちょっと……」 陽真(精神は澪)は顔を真っ赤にして、スマホを置いた。 「でも……向こうにしたら、ドタキャンされたら普通にショックだよな……てか当日の朝に言われてもって話か…」 「だけど、私、男の体で水着なんて着たく無いよ……!? 胸隠せないし……しかも脱毛してないし!?」 「でも…断るのは悪いしな…♡」 「なんか……あんた、ちょっと嬉しそうじゃない?」 「バレた…?♡」 二人の間に沈黙が流れる。 その後、澪(精神は陽真)がぽつりとつぶやく。 「……行くだけ行こうか。でも、絶対に“らしく”振る舞うの、忘れないでよ」 「うぅ…どうしてこんなにハプニングばっかり起こるのよ…」 昨日の気まずい空気だったのが、さらなるハプニングの予感で少しづつ空気が和らいでいく朝だった。 -続く-



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