小説 【入れ替わり・恋人同士】 ⑭

-目次- ・40.四日目-火曜日- ・41.快便 ・42.排便の感想 40.四日目-火曜日- 朝――。 スマホのアラームが鳴り響く中、もぞもぞと布団から抜け出したのは、澪(精神は陽真)だった。 「ふあ〜……おはよう、俺……いや、アタシ♡」 大きく伸びをしながら、自分の胸が伸びの勢いで揺れるのを見てニヤリ。 「今日もアタシ可愛い……♡」 澪(精神は陽真)はさっそく、澪のクローゼットの前にしゃがみ込み、引き出しをごそごそと物色する。カラフルなブラやレースの下着がきれいに畳まれて並んでいた。 「うふっ♡これは昨日の“戦利品”♡」 澪(精神は陽真)が大事そうに取り出したのは、昨日仕事帰りにこっそり購入していた豹柄の下着セット。しかも――どう見てもティーバッグ。 「エッチでセクシーなやつって、いかにもって感じで憧れてたんだよな〜♡まさか自分で履く日が来るとは思わなかったけど♡」 すると後ろから、どよ〜んとした気配。 「……ちょっと、陽真……何持ってるの?」 陽真(精神は澪)が、顔半分を布団から出して睨んでいた。 「ん? これ? 昨日買ったやつ。かわいくない? 女豹って感じで♡」 「どこの世界に自分の彼女の体で女豹になるやつがいるのよ!!」 「しかもティーバッグ!?!? ねぇ!? それ私の体よ!? お尻見えるんだよ!?!?」 「いや、今日一日、自分のお尻にドキドキしながら過ごすとか、新感覚でしょ?♡アタシ、今日もやる気でちゃいそう♡」 「変なモチベーションいらない!!」 陽真(精神は澪)は、顔を真っ赤にしながらも、タオルケットで頭までくるまりながらぼそっと言った。 「……ほんとにそれ、履いて会社行くの……?」 「うん、折角買ったんだし♡あ、どうせならちょっと見せようか? もう、エッチなんだから♡」 そう言って澪(精神は陽真)は履いていた下着を脱いで、豹柄のティーバックに足を通した…。 履いた後、澪(精神は陽真)は陽真(精神は澪)の前でクルッとターン。豹柄ティーバッグが、なんとも無駄に堂々とした存在感を放つ。 「おしり! 見せるなぁぁぁぁっ!!」 「ほらほら、ちゃんと筋トレしてた成果が出てるよね! ぷりっとしてるでしょ〜ん♡」 「筋トレ頑張ったの私だから!!……しかも、私の顔で“ぷりっ”とか言わないで!!……」 その後、陽真(精神は澪)は毛布の中で小さくなりながらこうつぶやいた。 「……もういいよ……勝手に履けばいいじゃない……でも……せめてスーツはズボンにしてよね……」 「はいはい、わかってるって♡」と、澪(精神は陽真)は適当に返事をして、豹柄セットの下着の上にスーツを着てテンション高く出社の準備を進めるのだった。 朝のリビング- フライパンからジューッという音が立ち上り、焼き鮭の香ばしい匂いが部屋を包む中―― 「どう?♡このパンツスーツ、キリッとしてるでしょ~ん♡」 澪(精神は陽真)が、リビングのドアを勢いよく開けて登場した。 シュッとした黒色のパンツスーツに、さっきまでクローゼットで悩みに悩んで選んだ白のブラウス。鏡の前で5回程ポーズを決めてからの登場だった。 「ふふっ、なんか……できる女って感じじゃない?♡ オーラ出てるでしょ?♡」 澪(精神は陽真)は、女の子口調で腰に手を当てながら、くるりと一回転してポーズ。 キッチンで朝食を並べていた陽真(精神は澪)は、それを見て顔をしかめた。 「ねぇ……私の体で、“ちょっと今日は勝負スーツで行っちゃう?”みたいなテンション出さないでくれる……?」 「女の子の体でパンツスーツってなんか興奮するんだもん♡女子っぽいけどカッコよくてさ♡しかもお尻が……うふっ♡」 「その“うふっ♡”が一番怖いからやめて。私の体、変な目で見ないで……」 「安心して♡見るだけじゃなくて、着るだけだから♡」 「もっとアウトだわ!!」 そんな、穏やか(?)な朝のひととき。 ところが―― と、そのとき―― 「……っ、ん?」 澪(精神は陽真)が、腹部を押さえて眉をひそめた。 41.快便 「……んんんん? これ……あれ? ヤバい? え、なんか来たかも?♡」 「……何が来たのよ」 「いや、あの、ちょっと、澪の体……腹の奥が急に動き出してる感じ? なんか、内臓が合唱始めたというか……は」 「は?合唱て何よ……」 「ごめん、トイレ、行ってくるっ♡」 颯爽とトイレに向かう澪(精神は陽真)。ドアがバタンと閉まり、数秒後――。 「………………っふぅ~~~~♡……」 ドアの向こうから、異様に幸せそうな吐息が聞こえてくる。 陽真(精神は澪)は、冷めた目でトイレのドアを見つめた。 「……私の体でトイレして気持ちよさそうな声出さないでよ…」 5分後――。 ドアが開く。 「ああ~……めっちゃスッキリしたぁ~~~~っ♡ なんか、澪の体ってすごい出るなね♡  なんか、こう、ブリッっていうか、ブリリッていうか、リズム感がすごくて♡……」 澪(精神は陽真)は、まるで温泉から上がったみたいに頬を紅潮させながらトイレから出てきた。 「やっぱり、女性の体って内臓の位置が微妙に違うのかな? なんか……解放感が深いっていうか、ちょっと目ぇ見開いたもん、うんこしてる最中に♡」 陽真(精神は澪)が、思わず両耳をふさいだ。 「それ私の体なの! あんた何実況してんの!? “ブリッ!”て何よ、“解放感が深い”って何よ!」 「いやごめんって♡でも伝えたくてさ……♡この身体すごいなって、感動して……♡」 「私はスッキリ報告されて全然嬉しくないし…」 二人の言い争いをよそに、トイレの中から芳香剤の甘ったるい香りと、排便後の臭い匂いと、どこか達成感のような空気が漂っていた。 「……あー、でもスッキリしすぎて、なんか今、めっちゃ興奮してる…♡」 腹は軽い。体も軽い。 おまけに下着はヒョウ柄だ。 「よし……完璧ね♡」 「人の体で勝手に完璧にならないで…」 陽真(精神は澪)は呆れて言った。 ふたりの“代理生活”はまだ半分ほど残っている。 そして、この一週間が「長いようで短く、短いようで長い」ことを、二人は実感し始めていた。 42.排便の感想 朝食を終え、会社に行く支度もひと段落。 陽真(精神は澪)はジャケットを羽織りながら、ふと視線を向けた先で、澪(精神は陽真)が鏡の前で髪の毛を真剣に調整していた。 「……なぁ、澪」 「なによ…?」 「やっぱさぁ、女性の体でトイレ行くのって、男と全然違うんだな♡」 「ちょ、ちょっと!? もうその話やめようって言ったじゃん!!」 「いや、これはさ♡科学的な関心ってやつ♡記録として残すべきだと思う♡」 「残さないで! むしろ消して!!」 「まずさ、座ってするっていうのがいいんだよね♡腰を落ち着けて、“構える”んじゃなくて“委ねる”って感じ?♡」 「やだやだやだもう、本当最低……!」 「でな、やっぱり骨盤の角度が違うからか、出るときの落差がすごいのよ♡ブリッ♡っていうか、ブリリッ♡っていうか♡――」 「やめてってばーーー!!!!!」 陽真(精神は澪)は大声をあげて耳を塞いだ。 澪(精神は陽真)はそれでもニヤニヤして話し続ける。 「それに、終わったあとのスッキリ感が、こう……芯から整った感あるのよ♡“デトックス♡”っていうの♡ヨガ帰りみたいな♡」 「ヨガ帰りとトイレを一緒にしないで!!」 「あと、ウォシュレットの感覚もなんかいつもより♡――」 「嫌あああぁぁぁ!!!!!」 陽真(精神は澪)はのぶとい男性の声で絶叫した。 だが澪(精神は陽真)は、まるで自由研究を発表する小学生のような顔で続ける。 「俺、男としてトイレでスッキリしたことって今までほぼなかったんだなって♡もう、“スッキリ”の定義、アップデートされちゃったかも♡」 「ねぇほんと……やめて……」 「澪の体で、“人生のトイレランキング”一位、更新しちゃったかも♡」 陽真(精神は澪)はスーツ姿でソファに倒れ込み、クッションを顔に押し当てた。 その肩がびくびく震えていた。 澪(精神は陽真)はその様子を見ながら、髪の毛直しつつぽつり。 「……っていうか♡今日の午後また行きたくなったら、どうしよう♡会社の女子トイレ、綺麗だったらいいけど♡」 「もう勝手にして!!!」 そうしてふたりはドタバタと出勤の準備を再開した。 澪(精神は陽真)はスッキリ笑顔、陽真(精神は澪)は羞恥と怒りで真っ赤な顔。 こんな一日の始まりが、あと何日続くのか――。 -続く-



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