穴の向こう側③

※

「わか、った。……で、してやる…………」

「ん?聞こえなかったけど、なんか言った?」

「ッ……ケツで、してやるっつってんだッ!!」

 思わず声を張り上げる。フェラでイかせてやれない以上、オレに残された道はこれしかない。さっきのこいつの言葉に従うしかないのだ。だからこれは仕方のないことなのだ。――自分自身に、必死にそう言い聞かせる。

 だが、壁の向こうから帰ってきた声は冷ややかだった。

「はぁ?ヤだよ。なんでそんなことしなきゃいけないのさ」

「だ、だってお前さっき、言ったじゃねえか……!」

「気が変わったの。今はキミのお尻になんて興味ないから。……口で出来ないなら、もう終わりでいいんだけど?」

 壁の穴からチンポがするりと引っ込む。オレはうろたえた。何故なら、そう……このままでは金を返さなければならなくなるからだ。それは、困る。オレは必死に引き止める。

「い、いや、待てって。このままじゃお前も中途半端だろ?だから、その……絶対、気持ちよく、するから……」

 焦るあまり、妙なことを口走っている気がする。だが構わない。ここでこいつを逃すわけにはいかない。貰った金の分の仕事は、きっちり果たさなきゃいけないのだから。

「……ふうん。そこまで言うなら付き合ってやらなくもないけど」

「お、おう。……ほら、さっさとチンコ出せって」

 壁に寄り添って、穴からもう一度チンコが出てくるのを待った。だが、帰ってきたのは意地の悪い壁の向こうの声だけだ。

「ま、どうしてもって言うならいいけど……裸になって、お尻をよく見せてくれない?」

「は、はぁ!?」

 予想外の要求に、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。何を言い出すんだこいつは。

「ボクらにとっては、人間が着てる服なんて邪魔なだけだからね。裸の方が”気”を感じやすいのさ。……あ、お尻を見せて欲しいのはボクの趣味。好きなんだ、人間のお尻の穴を観察するの」

 怒りで顔が熱くなり、オレは叫んだ。そんな屈辱的な真似、絶対にゴメンだった。

「ふ、ふざけんなッ!なんでそんなこと……ッ!」

「あっそう。……じゃあやめるかい?」

 こう返されると、怒りもあっという間に萎んでしまう。そこでオレはようやく、いつもと立場が逆転していることに気づいた。今までは、この行為の主導権はオレにあった。今は違う。主導権は壁の向こうにあり、オレはそれに従うしかないのだ。

「てめぇ、覚えてろ……!」

 三流の悪役のような台詞を吐き捨てて、オレは乱暴にズボンのベルトを緩める。パンツごとそれをずり降ろし、身体の下半分が丸出しになった状態で、トイレの便座に手を付ける。

「それじゃ全然見えないよ。もっとお尻を近づけないと。ほら、もっと思いっきり、ぷりっとお尻突き出して?」

 オレの顔がもう一度、今度は恥ずかしさで熱くなる。身体が震えるのを抑えながら、オレは言われるまま、穴にケツを近づける。

「んー、近づいたけど……やっぱり見えないなぁ。……よし、手でお尻を拡げてみよっか。それならちゃんと見えるから」

「ッ……てめぇ……!」

 楽しそうに、くすくすと笑いながら、壁の向こうの声は言う。どれだけ怒りを感じても、オレの立場では従うしかない。悔しさと恥ずかしさで震える手で、ケツの肉を引っ掴む。

「そうそう、そんな感じ。……ははは、すごい恥ずかしがってるね?壁越しでも伝わってくるよ」

 自分の身体の、一番隠された場所を観察されることが、これほど屈辱的だとは思わなかった。あまりの恥ずかしさに涙が出てくる。だが、どれだけ恥ずかしい思いをしても、オレはこいつに従う他ない。壁の向こうの視線が満足するまで、オレはひたすら尻穴を晒し続けた。


 注がれる視線にまるで炙られるかのように、ケツの奥がむずむずとする。恥ずかしさだけではない、妙な気持ちがこみ上げてくる。

「ふうん……お尻の穴見られて興奮しちゃったんだ?」

全てを見透かしたような声に、オレはぎくりとした。……いや、単に言い掛かりに腹が立っただけだ。断じて興奮などしていない。

「こっ…興奮なんて、してねえよ!もういいだろ、さっさと済ませろよッ!」

「……うん、そうだね。キミのこと、よく分かったし」

 ようやくこの時間が終わることにホッとする。だが、直後に返ってきた壁の向こうからの言葉に、オレは固まった。

「キミ、自分でお尻弄ってるでしょ」

 背筋が凍る。何か言い訳をしなければ、と思ったが、言葉は喉元で絡まってつっかえてしまう。

「……ほんとは興味津々だったくせに、生ハメする勇気が無かったから、お小遣いでオモチャでも買って遊んでたんでしょ。」

「……なん、で」

 なんでバレた?――――オレの心の中を読むかのように、壁の向こうの声が答える。

「だから言っただろ?『悪魔』だって。キミみたいな子の考えることはお見通しなのさ」

 そんな訳はない。心ではそう思うのに、壁の向こうにいるはずの存在が、途端に恐ろしいモノに思えてくる。「悪魔」は更に続ける。

「恥ずかしがることはない。気持ちいいことを求めて何が悪いんだい?……自分に素直になりなよ」

 今までと打って変わった優しい声。その声に、オレの心はぐらぐらと揺らぐ。

 そんなワケない、と叫びたかった。けれど、オモチャで尻を弄っていることも、ケツを使ったセックスに興味があったことも本当だった。認めたくなくて自分に嘘を吐いていたけれど――――本当のオレは、誰がどう見ても立派な変態ヤローだ。

「そのお金、欲しいならあげるよ。……はい、これでキミがこだわる理由はなくなったよね?……ボク、帰ってもい」

 本来なら、嬉しいはずだった。楽して金を稼げるのだから、こんなに嬉しいことはない。そのはずなのに、穴から覗く人影が離れていくのが見えて、オレは何も考えず、壁に縋りついていた。

「ま、待って……待ってくれッ!」

 必死に叫んで、扉の向こうのそいつを引き留める。もう何も考えられなかった。

「たのむっ……おっ、オレのケツ……、使ってくれ……ッ!」

 絞り出した情けない台詞に、高笑いが響いた。

「ケツ?ちがうちがう、『ケツマンコ』だよ。やり直し」

 普段のオレなら、とても口に出せないような恥ずかしい台詞。でも、オレは止まらなかった。――止まれなかった。

「け……ケツマンコっ、使ってくれ……!」

「使う、って何?もっと具体的に言ってよ」

「ッ……チンポ、突っ込んで……ケツんナカ、ぐちゃぐちゃにしてくれぇッ……!」

無様に叫ぶオレに、壁の向こうから笑い声が響いた。じわりと涙がにじんで、視界が歪んだ。

「いいね、人間素直が一番だよ。……ボクの言うこと、ちゃんと聞いてね。そしたらちゃんと気持ちよくしてあげるから」

 敗北感と屈辱感で胸がいっぱいになり、涙どころか鼻水まで啜る有様だった。それなのに、オレのチンコは勃ちっぱなしで、先っぽはカウパーでぐちょぐちょに濡れている。あぁ、オレは本当に変態なんだな――――そう、思った。

次↓


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 3話目です!遅れて待って申し訳ない…‥

 3話目にして落ちました。残り2話でどこまで落ちますかねえ〜(他人事

(Fanbox)





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