『淫獣捜査 隷辱の魔罠』第93話(前半)

『淫獣捜査 隷辱の魔罠』第93話(前半)  俺たちを乗せた二台のバイクは、大通りを西に向かって疾走していた。  頻繁に車体を左右に傾けては、車同士の狭い隙間を縫うように抜けていく。  ヘルメットのバイザー越しとはいえ、目の前を過ぎ去る車のボディには肝を冷やされる。そのまま振り落とされないように、目の前のドライバーの身体に抱きつくしかない。  ライダースーツの厚い生地越しに鋼のような肉体を感じ取れる。女言葉を使うマッチョな店長は、パワー任せに車体を操り、さらに速度を上げていった。  二台のバイクによる暴走によって、慌てて停車した車で背後は大混乱になっていた。仮に俺たちを尾行する者がいても、これで振り払えているだろう。 (さて、これからどうするか……)  無事にヤクザたちの包囲網から脱出したわけだが、落ち着くといろいろと気になることがでていた。  店を脱出した俺と玲央奈は、ヤクザたちに追われて雑多な街を当てもなく逃げ続けた。  時間にして小一時間ほどだろう。袋小路に追いつめられたものの、それも何とか逃げられそうな状況まで持っていった。  そこへ、はかったようにバイクで登場して、こうして俺たちを乗せて颯爽と逃げ去ってみせたわけだが、そのタイミングがあまりにも都合が良すぎた。  バイクで駆けつけるにしても、事前に俺たちの場所をわからなければどうしようもないだろう。ならば、彼らは俺たちの位置を把握できていたことになる。  その上で程よくピンチになったところで、助けに入ったと俺の中で疑念が生まれていたのだった。 (さて、今度は誰の思惑が絡むんだ?)  米軍、諜報部、警察、ヤクザ、そこにまた一つ加わるわけだ。もはや紫堂と俺の間でおこなわれているゲームという単純な話ではなくなっていた。 (ならば、ここは乗せられてみるべきか……)  今の俺に必要なのは情報だった。盤面の上に並ぶ駒を把握しなければ、先の手を予測して検討することもできないからだ。 「……おっとッ」  思考に耽っていたところで、バイクが急にカーブした。ヘルメットごと首が持っていかれそうになる。  このまま郊外へと向かうのかと思ったが、どうやら違うようだ。バイパスから外れた二台のバイクは、そのまま近くのビルの地下駐車場へと降りていった。 「さぁ、ここで降りてもらうわ」  駐車スペースにバイクが停止されると、運転していた店主がバイザーを上げてウィンクしてくる。  彼のつけ眉毛と濃いアイシャドゥが妙に気になるが、今は置いておく。  指示に従ってバイクから降りれば、両側に止められていたキャンピングカーとマイクロバスからワラワラと人が出てきた。 「ーーッ!?」 「うふふ、大丈夫よ、安心して」  反射的に手が腰のフォルスターに伸びていた。だが、店主は笑顔で銃を抜くのを止める。  出てきた連中を確認すると、どれも十代の若者ばかりだ。彼らに敵意がないのは、その目をみればわかる。俺は銃のグリップから手を離した。 「わかった。それで、どうするつもりなんだい?」  少年のたちに被っていたヘルメットを手渡しながら、疑問を口にする。だが、その半分は答えがすぐにわかった。  少年たちの中に店長らと同じライダースーツを着た者がいたからだ。さらに、俺と玲央奈に似た服装の男女が加われば、もう予測はつく。彼らは受け取ったヘルメットを被るとバイクへと跨る。 「身代わりか」 「えぇ、代わりに郊外まで走ってもらって注意をひいてもらうわ。もちろんサポートはするけどね」  走り出した二台のバイクを見送ると、俺と玲央奈はキャンピングカーに入るようにうながされた。  そこで身なりを整えて、用意してある服に着替えろということらしい。指示を求めるように玲央奈が見てくるので、俺は頷いて応えてやる。  正直、狭い壁の合間を通り抜けたり、走り回ったおかげで、俺たちの身体は埃と汗にまみれていた。  それに、ヤクザたちには着ている服装の情報も出回っている可能性もある。少しでも発見される危険性を下げるのなら着替えるのも有益だろう。 「どうせならシャワーを使ったらどうだ?」  銃は取り上げられてないから、見張りぐらいはできる。入口をロックすると常に手の届く場所に銃を置いておく。  だが、内心ではそれほど警戒はしていなかった。相手の思惑がなんにせよ、このタイミングで襲う理由がないからだ。 (襲うなり、自由を奪うなら他にやりようがあるしな)  玲央奈がシャワーを浴びているうちに内部をチェックして、カメラなどが仕込まれていないのも確認したおいた。 「さて、俺はタオルですませるか」  服を脱いで濡らしたタオルで身体を拭うと、着替えを確認する。用意されていた服はタキシードだ。それもオーダーものの一級品のようで、心地よい肌触りには、秘密倶楽部に潜入した時を思い出す。 (まだ一ヵ月少しの時間しかたっていないはずなのに、随分と昔のように感じてしまうな……)  手早く身につけていくが最後の蝶ネクタイには苦戦する。正直、触るのも初めてで頭を抱えたが、最後にはネットの力を借りる。  動画をみながら、それらしく整えた俺は、ヘルメットで乱れた髪を同じく整髪料で整え、ついでにコロンも借用してみる。  そうして、先に準備を終えた俺はひと足早く、キャンピングカーを下りるのだった。 「あら、なかなか様になってるじゃない」 「それはどうも……それで、こんな服に着替えさせられて、次はどこにエスコートしてもらえるんです?」 「慌てないの、それは、ついてからのお楽しみよ。彼もそこで待っているわ」  ウィンクをした彼は、意味ありげな笑みを浮かべる。俺の方もそれ以上は追求しない。ひとまず欲しい情報は、今の会話で得られてもいた。  しばらくして、キャンピングカーの扉が開いて、玲央奈がでてきた。  彼女の方は漆黒のドレス姿だった。胸の下まで切れ込みのある大胆なデザインで、歩むたびにスリットから伸びる白い生足に目をひかれる。  背中など上半身は隠すものがなく、脇から乳房がこぼれ落ちんばかりだ。  長い金髪を編み上げてアップにまとめた姿は、随分と大人びてみえる。  残って撤収作業をしていた少年たちも、思わず手を止めて魅入ってしまっている。  そして、目の前にいるのが国民的アイドルの翠河 玲央奈だと気付いたようだ。途端にソワソワして落ち着きがなくなり、しきりに隣のやつに声をかけろと促しあっている。 (あぁ、これが普通の反応なのだろうな)  勇気を出した少年のひとりがペンを片手にサインを求めた。それに笑顔で応えてやると残りの連中も殺到してくる。  色紙の代わりにシャツや持ち物にサインを書いてもらい、喜んでいる姿につられて口元が緩む。  そして、改めて目の前にいる玲央奈が、アイドルであるのを実感させられた。 (あぁ、普段の素の姿も良いけど、アイドルとしての姿も生き生きとしているな)  アイドルでいることを愉しんでいるのがよく伝わってくる。  だが、現状では彼女がステージに戻るには問題が山積みになっている。  少なくとも紫堂との一件がなんらかの形で落ち着くことは必須だろう。そして、彼女を拐った連中にも何らかの処罰が与えられりべきだと俺は思っている。 「あら、怖い顔してるわよ」 「えッ……あぁ、マズいなぁ」  店主からの指摘で、慌てて顔を背ける。最近になって、同じような指摘を受けることが多くなっているのだが、まったく自覚できていない。  玲央奈が言うには、紫堂と同じ笑みを浮かべているらしく、彼を追っていた涼子さんにはとても見せられない顔なのだ。  なるべく自制するように心掛けているものの、先ほどのように負の感情が湧き上がると、無意識にしてしまっているようだった。 「まいったな……」 「そう悲観しなくても、アタシは好きよ」 「ははは、ありがとうございます」  腰を振ってアピールしてくる店主に、俺は引きつりそうな顔を誤魔化しながら礼をいうしかなかった。  そうこうしているうちに人数分のサインも終わり、用意された新たな車で移動することになる。  外部からうかがえないよう、高級ワゴン車の窓には濃いスモークが貼られていた。  意気揚々と乗り込んだものの、移動に要した時間はわずかだ。なんと先ほどまで逃走劇を演じていた繁華街へととんぼ返りすることになるのだった。  



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