凜華 【カット2】
【カット2】ターゲット候補の女子大生
狩人が向かったのは繁華街の中心部だ。そこには再開発よって建てられた最新鋭の複合施設があった。
地上四十八階、地下五階、二百二十五メートルの高さを誇る超高層複合施設だ。
なかには商業施設、飲食店をはじめとしてライブホールや映画館、アミューズメント施設、高級ホテルまで話題となる施設が充実している。
良くも悪くも昔ながらの雰囲気が残る周囲とはまた違う空間で、若い世代を集めるのに活躍している。
そのためサラリーマンや学生集団が多かった外とは違い、若いカップルや女性だけの集団が目につくようになる。
目的地であるバーは、その施設の十七階にあった。店内に足を踏み入れると、一面ガラス張りとなった奥の夜景が目に飛び込んでくる。
線路を挟んだ向こうには、都心部の象徴である都庁と高層ビル群が一望できた。ライトアップされた夜景を愉しみながら、お酒を愉しめる洒落た場所とあって若い女性が多かった。
狩人はひとりカウンターの隅へと腰を下ろすと、スーッと目の前にグラスが置かれる。
差し出した若い男のバーテンダーが意味ありげな笑みを浮かべていると、狩人も笑みを浮かべてグラスを手に取った。
グラスを満たしているのはキールというカクテルだ。白ワインをカシスリキュールで割ったカクテルが持つ意味は「最高のめぐりあい」「あなたに出会えてよかった」である。狩人が情報提供者との符丁として使っているアイテムの一つだった。
「それで、お奨めのヤツというのはどれだ?」
狩人が座った席は、店内が一望できる位置にある。品定めをするに最適な場所といえるだろう。バーテンダーはグラスを拭く振りをしながら、指先で店の中央を指さしてきた。
そこには大学生らしき女性たちがテーブルを囲んでいるのが見える。そして、それ以上の説明は不要だった。あとは狩人のお眼鏡にかなう者がいるかどうかなのだ。
「へぇ」
テーブルを囲むのは二十歳前後の四人の女性だ。どれも顔立ちもスタイルも良く、ちょっとした仕草からも育ちの良さがうかがえる。
ひと昔なら繁華街には足を踏み入れないタイプの女性たちであり、この複合施設が狙い通りに集客している証拠でもあった。
だが、その中でも狩人の目を引く存在がいた。上品そうな周囲とは少し毛色が違って感じられたのはボーイッシュな雰囲気を漂わせる女性だ。
ノースリーブのブラウスにジーンズといったラフな服装、癖のある髪をショートヘアがより中性的な雰囲気を強めている。
振る舞いから、あえて女性らしさを消している風にすら感じられるが、いくら男性ぽく振る舞っても、服の上からも運動で絞られた見事な肢体がうかがえ、魅力的な腰回りの丸みと胸の豊かな膨らみは隠しようもない。
それ以上に狩人が気に入ったのは、双眼に宿る強い光である。彼の好みとするタイプは、揃ってそういう目をしているのだった。
オーダーを取りにきた女性店員と仲良さげに言葉を交わしていることから、この店の常連であるのだろう。笑うと途端に中性的な顔立ちから女らしさが溢れ出す。それを観察しながら、狩人は用意されていたグラスへと口を付けていた。
「気に入ったのがいたようで良かったです」
グラスで隠された狩人の口元に浮かぶ笑みに、バーテンダーもえらく満足げだ。
彼による配信の熱烈なファンだけあって、それに協力できることに無上の悦びを感じているのだ。
アアンダーグラウンドサイトの配信ファンには、こうした熱心な支援者は多い。己の利益よりも献身することに価値を見出している者や、さながら信者のごとく崇めている者すらいるほどだ。
このバーテンダーも周囲の目を気にしつつも、狩人と言葉を交わすことに興奮を隠せずにいた。
「聖ミカエル大って話だったか?」
「えぇ、しかも空手部らしいですよ」
「へぇ、それはますます良いな」
「では、決まりですか?」
「いや、いつも通りに、まずは下調べをしてからだ」
狩人は慎重な性格であった。獲物のことを徹底的に調べ上げて、確実に獲物を仕留めようとする。
その上で、それが困難だと判断すれば潔くあきらめることもできる性格の持ち主であった。
だが、邪悪な笑みを浮かべる彼の様子から、バーテンダーはすでに獲物に認定されたと確信していた。
そして、視線の先にいる女子大生が次の配信では狩人の手によって裸に剥かれていくことになるのを想像して、早くも股間を硬くしているのだった。
