悪寧惨、初配信17p【愛で女、悪寧惨堕ち後日譚】

◆おまけ◆



「今日は、ぜんぶ一緒に育ててみようと思います。

 ……って言っても、やることは特にないですけどね」


淡々とした声。

その無表情のまま、彼女は何もせず、赤ちゃんたちを見下ろす。

もぞもぞと動き出す小さな体。

か細い鳴き声がマイクに拾われる。


カメラがゆっくりと引く。


そこには、愛でラボの純正飼育ケージが置かれていた。

中には、十匹のこたつむりまりちゃの赤ちゃん。

生まれたてで、頼りない小さな体がもぞもぞと蠢いている。


「昨日ペットショップでまとめて買ってきました。

パッケージからまりちゃだけ出して、そのまま自然解凍して…

まる1日経ってます」


言葉に温度はない。

まるで、野菜でも買ったかのような口ぶりだった。

十匹の赤ちゃんたちは、丸一日、ただ置かれていただけだった。

こたつさんと引き離されたまま、

寄り添い合うようにして、小さく小さく身を丸めている。


「こたちゅさん、あいたいにょ……」

「しゃむいにぇ……まま、だっこちて……」

 

お迎え直後、本来なら最初に与えられるはずの

お食い初めの茎も口にしていない。

小さな身体は栄養を失い、

ゆっくりと皮がしぼんでいくように見えた。

その中に――ひときわ小さな個体がいた。

他の子より一回り細く、色も薄い。

産まれた瞬間から、力の差を抱えたままの赤ちゃん。


「……ぴ、ぴぃ……」


その声はほとんど空気の振動のようで、

震えるたびに身体がきしむ。




「個体差もあると思いますが、この子、未熟ゆに近いサイズですね。

たぶん今日持たないかもしれませんね」


赤ちゃんたちは、触れられたくて、温められたくて、

マイクに向かって喉をすり減らすように鳴き続ける。


「ままぁっ……おなまえ、よんでぇ……」

「ひっぷだんしゅ……ちまちゅ……みちぇにぇ……」

「ぴぃ……ままぁ……」

「まま、くきしゃん……むーちゃしちゃいにょ……」

「ゆっくち、ちちぇいっちぇにぇ……ゆっくちちちぇいっちぇにぇ……」

「ままぁ、こわいにょ……」

「こたちゅしゃん……どこ……さみちいにょ……」




赤ちゃんたちは、こたつさんを背負っていない。

ただの柔らかい身体が、温もりを求めて震えている。

 

「……何もしないでいる様子を観察してるだけでゆっくりできますね。

 “かわいい”って、こういうことでいいんですよ」


A子は、わずかに口角を引き上げた。

笑顔の形をしているのに、そこには一切の慈悲がない



「――ああ、そうだ。ひとつ、言っておかないといけないことがあります」


A子は、無機質な声で切り出した。

コメント欄がざわつき始める。


「実は、私――悪寧惨だったんです」


一瞬にして、コメント欄が爆発する。


え?

は?どういうこと

うそでしょ

やめてそれ冗談だよね?

A子ちゃんの宝物じゃなかったの?

高速で流れるコメントを、A子は一切見ない。


「というわけで、こちらを投下してみたいと思います」




A子の指先から、ひょいと掴まれた小さな影が落ちた。

どさり。

机の上で転がる鈍い音が、マイクに生々しく響く。

それは、一匹のこたつむりまりちゃ――

かつてA子が、誰よりも大切に、大切に抱きしめていた「こちゃ」だった。

こびりついたうんうんまみれになり、その姿は、

都会の野良ゆっくりのようにみすぼらしかった。



「ゆ……ゆぴ? なに、ありぇ……」「おばけしゃん……?」

「こわいの……こわいのぉ……」


赤ちゃんたちは、それを見て息を呑んだように声を潜める。

その沈黙の中、A子は淡々と語る。


「知ってますよね。こちゃ。

ずっと、私が育ててきた子です」


カメラを少し寄せ、こちゃを指差す。


チャット欄がざわつき始める。


《え?》《嘘でしょ》《どうしたの?》《こちゃじゃない》


無数の文字が流れては消える。


「皆さんが知っている、この子。人間の赤ちゃんみたいに、手をかけて、時間をかけて、毎日毎日、愛でて育ててきた子です。フォロワーさんはみんな覚えてるでしょう?初お風呂の日、ドライヤーに怖がって泣いちゃった回とか、

ミルクをあげたら、震えながら喜んだことも」


「私、ちゃんと約束してたんですよ。

こたつさんを背負って、ゆっちゆっちできるようになったら、

特別なあまあまさんでお祝いしようって。一緒に、成長を喜ぼうって」


A子の表情は変わらない。

笑っているようで、どこにも光がない。


「でもね。結局この子は、私を繋ぎ止めるために、

最後は“赤ちゃんのアピール”に戻っちゃったんです。

ヒップダンス、必死でして……あれ、わかります?

すごく、惨めで、可愛かったんですよ。

この子が泣いたり、苦しんだり、みっともなく縋ってくる姿が――

たまらなく愛おしいって、気づいてしまった」


カメラの前に、こちゃのくしゃくしゃの顔が映し出される。



「見てください。

お風呂にも、もう何日も入れてません。

おむつもしてないので垂れ流しです。

またここの所、時々思い出したように私を呼んで鳴くんです。

うんうんするとやっぱり嫌な記憶を出しちゃうんですねえ。

お世話してほしいなんて、ほんと可愛いですね」


こちゃは震えながら、最後の力で声を絞り出す。


「ままちゃ……おせわちて……うんうん、もうださにゃい……

こちゃ、いいこ、なのにょ……」


A子は、まったく表情を変えずに言い放つ。

淡々と、まるで天気の話をするように。


「餌はちゃんとあげてますよ?生きていてくれないと、困るので」


コメント欄は凍りついたように止まる。

A子はカメラへと視線を向け、優しく微笑む。


「私はこの子を嫌いになったわけじゃありません。

愛情が消えたんじゃなくて、ただ形が変わっただけ。

泣いて、震えて、必死にすがってくる姿が――

今は、いちばんかわいいんです」


やめろ

たすけて

誰か連れて逃げさせて

これ配信していい内容じゃない

もう見てられない


画面には、泣きながら震えるひとつの命。

それをただ切り捨てる、かつてのママ。

そして、静寂が落ちた。


「だから、今日は “見せよう” と思いました。

愛情が、どんなふうに転化するか。

かわいいものが、どんなふうに腐っていくか。

あなたたちにも、ちゃんと見てほしいんです」


チャットは止まり、スタンプすら流れなくなる。

配信には、赤ちゃんたちのか細い鳴き声だけが残った。


ポトン、と。

照明に照らされながら、黒ずんだ塊、

それがこちゃの頭へまっすぐ落ちた。


ゴッ


「———ぴぃっ!!」


その表面は茶色く固まった排泄物でまだらに汚れ、

綿飴のようにふわふわであるはずの布地は、所々裂けていた。

A子は淡々と説明を始める。






「いちゃあっ! ……ゆぅっ、こたちゅしゃ……!」


「……ひどい有様でしょう。あの日のものです。

この子が、虐待されていた妹のこちゃと争ってしまった日の」


カメラが寄る。

裂け目の間には、小さな歯形の痕と、乾いた赤黒い染み。



「ゆぴ……」


うんうんまみれではあるが、あれが

こたつであると認識した瞬間、赤こたたちの目は大きく見開かれた。


「……こたつしゃんだ……」「こたつしゃん、あゆの……!」


その言葉が合図のようだった。

一匹、また一匹と、よろめくように近づいていく。

震えるお下げが、こたつさんの汚れた縁にそっと触れる。

うんうんのカスまみれの外見に、一瞬引き下がる。

けれど――温もりの幻を求めて、再び触れる。




「はいりたいの……あったかいの……」

「こたつしゃん、おひしゃまのにおいすゆの……」


彼女らには、汚れもボロボロさ加減もゆっくりできないはずだった。

ただ“そこにこたつがある”ということは紛れもない真実だった。


「だめにぇえっ! くるにゃあっ!!」


中から、こちゃのかすれた声が響く。

もはや怒りでも威嚇でもない、

ただ、最後の居場所を守るような反射だった。




「こたつしゃん、はいりたいの!」「どいてにぇ!」「ゆわぁぁん!」


小さな体が何度もぶつかり合い、

汚れたこたつ布団が裂けるたび、空気に酸っぱい匂いが広がる。


「ゆぴっ!」「いやぁ!」「あっちいけぇ!」


赤ちゃんたちは泣きながらも押し合い、

こちゃは涙と餡と汚れの混じる中で必死に身をよじる。


「おかざりがにゃいゆっくちしちぇにゃいチビが

おしょっちぇくりゅ! ままちゃ、ままちゃああ! たちけて、 こちゃにょ

こたちゅしゃんにはいっちぇくりゅよ!」


あれから全く優しくされていないのに、こちゃはママを呼ぶ。

そして、助けが得られない事をすぐに思い出し、こちゃは慌てて、自分のこたつさんの中へ潜り込む。

ケアをされていないこたつはボロボロで、こちゃ自身のうんうんで汚れ切っている。それでもまだこちゃの家だった。


だが――赤ちゃんたちは止まらない。


「こたつしゃん、はいりたいのー!」「あったかいのー!」

「ままのにおいするのー!」

「いちゃああっ、こたにょおしゃげしゃ! ぴいいい!」

「おばけやっちゅけゆにょー!」


ひとりが入口に顔を押しつけると、もうひとり、またひとりと群がってくる。

小さなおさげが、ひらひらとこたつの裾を掴み、引っ張り、潜り込もうとする。


「ぴいいい!」


こちゃの頬が裂ける。誰かの小さな歯が次々と食い込む。


外から見ていたA子の頬には、

その混沌を映す光も影もなかった。

彼女の目の中で、

こちゃも赤ちゃんたちも、

すべて同じ――ただの、柔らかい群れだった。


こちゃはふるふると震えながら身をよじらせ、

力の弱い何匹かに噛みつき、その身体を弾き返す。

しかし次の瞬間には、別の子がまた押し寄せてくる。


「みゃぁっ、いたいにょ! やめちぇえ!」

「ぴゅうっ……! こたつさん、こたでちゅ!」


こちゃの叫びはすぐに、泣き声に変わった。

十匹の赤ちゃんたちは、それを理解しない。

ただ“あたたかいところ”を探しているだけ。


十匹は多すぎた。

赤ちゃんたちの体がじっとりと重くのしかかり、

かつて愛情で丸くなったこちゃの体は押し潰されるように沈んでいく。


声は次第に細く、かすれていく。

もぞもぞとうごめく十の影に包まれ、

こちゃの姿は少しずつ、少しずつ、飲み込まれていった。


「やめちぇにぇ! こちゃの! こたつさんはこちゃのにゃにょ!

ままちゃー! ままちゃああああ!!」




泣き叫ぶ声が、ケージを震わせた。

A子はその前で、淡々とスマホを構えながら微笑んだ。

光の角度を少し変え、群がる赤ちゃんたちの焦点が重なる瞬間を狙う。


「……いいね、その顔」



〈かわいそうなのにかわいい〉

〈おせわ待ってるの健気すぎ〉

〈泣き声やば〉


A子は、画面越しの熱気を感じていた。



「こちゃ。まだ“ままちゃ”って呼ぶんだ」


ガラスの向こう、こちゃは赤ちゃんたちに押し潰されながらも、

必死にこたつさんを抱え込んでいる。

こたつの綿飴のような縁には、うんうんがこびりつき、色も形ももう原型を留めていない。


けれど、それでもこちゃは離さない。


――まるで、壊れた玩具が自分の壊れた記憶を守っているみたい。


A子はスマホをズームにしながら、薄く笑った。


「そういうの、“愛情”って言うのよ。ねえ、みんな」


コメント欄は、A子を激しく糾弾する声で埋め尽くされた。


「やめて」「お願い抱いてあげて」「虐待だろこれ」


怒りと困惑の叫びが次々と流れ続ける。

しかし――その波の中に、突然、異質な言葉が混ざり始めた。

まるで沈んだ水面に、静かに泡が弾けるように。


「これが悪寧惨か……静かに壊してくの、鬼威惨よりゾッとする」

「手ぇ出さないのに、全部支配してるのがヤバい」

「お世話しないってだけで、こんなに痛々しいんだ…」


批判の嵐の合間に、称賛とも興奮ともつかない声が、不気味に紛れ込んでいく。


「鬼威惨が暴力で壊すなら、悪寧惨は愛情で腐らせるって感じ」

「悪寧惨の方がえぐい。表情が優しいままなのが一番怖い」

「ママちゃって呼ばせたまま放置するの、センスある」


流れは止まらない。


「悪寧惨は感情を食べるタイプの虐」

「手を汚さないのに心を抉る。これが悪寧惨か」

「沈黙で支配する方がリアル。悪寧惨、深い」


批判側の声は、突然湧き上がった奇妙な共感の波に押され、かき消されていく。


「ママの冷たさがコンテンツになる時代、来たな」

「ゆっくり腐らせていくのな宗教的ですらある」

「優しく笑ってるのに、ぜんぶ終わってる。そこが最高」


配信の空気は、一気に異様な熱を帯びていく。

止めようと叫ぶ声と、魅了された観客の喝采が、狂ったようにぶつかり合う。

そして画面の中央で、A子はただ、微笑んでいた。

まるで全てが、予定通りであるかのように。


A子の頬に、わずかに紅が差した。

それは恍惚でも、怒りでもなく――ただの、快感。


助けを求めるこちゃの鳴き声がぴぃぴぃと細く途切れた。

生後1ヶ月のこちゃと、生まれたばかりの赤ちゃんたちの

体格差はほんの指先ほど。

けれど、その差には、積み上げてきた時間と愛の重みが刻まれている。

一ヶ月のぬくもりは、生まれたばかりの命よりも、はるかに重く、柔らかく、

そして――壊れやすい。


小さな体が震えながら、押し寄せる赤ちゃんたちの群れに埋もれていく。

まるでゾンビに襲われているみたい。

A子はその様子を、冷たい瞳で見つめながら、

スマホ越しに小さく笑った。


「――かわいいね」


ーーーーー


闘争が終わると、ケージの中は異様なほど静かだった。

こちゃは片目を閉じ、濡れた頬を震わせながら、破れたこたつ布団の残骸に身を寄せている。

右目のあたりには乾いた餡と赤いものが混ざり、

ほとんどのヘアーさんは引きちぎられ、千切れた繊維が床に散っていた。

倒れたまま二度と動かない小さな体がその周囲にいくつも転がっている。

生き残ったのは――わずか三匹だけ。

ひとりは闘争にすら加われなかった、未熟ゆの小さな個体。

最初に踏みつけられて、うすい呼吸だけがかすかに震えている。

もうひとりは、戦うことを選んだが、

開始直後にこちゃにお下げを引きちぎられて戦意喪失になった子。

その丸い頭はまだ涙で濡れて、

「いたいにょ……」と、消えるような声だけが残っている。

そして、こちゃ自身。


A子は、静かに立ち上がると、

洗面器に溜めていたオレンジ湯――

用意していた柑橘の香りの湯へ三匹をぽとぽとと落とした。


小さな体が冷めた湯の中でびくりと震え、

まだ、生きようとする意思だけが残されていた。


汚れて裂けたこたつ布団の破片を、A子は無造作にちぎる。

こたつさんは、ぬめりの残る枠組みと、

割れかけた天板だけが辛うじて原形をとどめていた。


A子は三匹を川の字に横たえる。




未熟ゆはオレンジの効果で震えがおさまっている。

もう1匹の赤ちゃんはぴいぴい泣きながら失ったおさげをふるふると震わしている。

中央にはこちゃが、こたつを守り切ったとのたまっている。


並べられた赤ちゃんたちを見て、A子はふと息を止めた。

こうして見比べると――こちゃは、ずいぶん大きくなっていた。

周りの子たちはまだ新品。

その小さな子を、こちゃは殺したんだ。


A子はしゃがみこみ、3匹が力なくころんと横たわる

その光景に淡い笑みを浮かべて囁く。


「……かわいいですね。

こうして並べると、“家族”みたい」


守りたいから、傷つける。

愛してほしいから、奪い合う。

善良であるはずの赤ちゃんたちが、

こたつを求めて泥のように絡み合っていく。

その姿が、

どうしようもなく、

おかしくて。


――だって、みんな同じ顔で泣くのだから。


こちゃも、他の子も。

大きさが違うだけで、願いは同じ。


「ねえ……ほんと、かわいいですね」


A子の唇が、ひとりでに吊り上がった。

笑いは、いつまでも止まらなかった。


ケージの中には、あまりに静かな、

甘くて苦い柑橘の匂いだけが漂っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

というわけで、今月の一番最初の更新は

A子の悪寧惨デビュー配信でした。


リクエストで、悪寧惨A子の続きの話をリクエストされた方、

内容が被ってしまったので、

再度リクエストいただければと思います!!

(お手数ですが、コメント欄からお願い致します)

12月リクエスト(ss)





















AD
x
AD
x

相關作品