おくるみチョイス!+愛で配信の裏側で【3】
配信開始の効果音が鳴る。
いつもと同じ、軽くてポップなジングル。
画面の中で、ドットの街が横に流れていく。
「はーい、こんばんはー。今日はね、ゲームしていくよ」
自分の声が、少しだけ高い。
でもリスナーはもう慣れているのか、コメント欄は淡々と動き始めた。
〈久しぶりのゲーム配信〉
〈いつものみゅわだー安心する
――安心、ね。
みゅわはコントローラーを握り直す。
インディーの2Dアクション。女主人公が荒れた街でチンピラを殴り倒していくやつ。
銃声も血も、ドットにすれば全部軽い。
「このゲームさ、作者さんとちょっと仲良くてぇ。
先行でやらせてもらってるの」
言い慣れた“自慢”。
それを口に出すと、配信者としての位置が戻ってくる気がした。
キャラがジャンプする。敵を倒す。
テンポよく進めながら、みゅわの頭の片隅では、ずっと別の画面が再生されている。
――なんで、あんなに燃えたんだろ。
ネイル。
怪我。
もっと雑な配信者だっている。
もっと酷いことをして、平気な顔で続けてる人もいる。
「……最近さ」
言葉が、うっかり零れそうになって、みゅわは慌てて笑う。
「なんか界隈、ピリピリしてない?」
〈わかる〉
〈悪寧惨系増えたよね〉
〈最近の炎上全部それ絡み〉
――そう、それ。
みゅわは内心で頷く。
A子。
悪寧惨堕ち。
“優しかった飼い主が壊れていく配信”。
あれがウケたせいで愛で配信者は一気に“疑われる側”になったらしい。
少しでも乱暴に見えたらアウト。
少しでも笑顔が歪んでたら、アウト。
ネイル一本で、「裏がある」と言われる。
タイミングが悪すぎた。
「みゅわはさー、そういうのじゃないから」
言い聞かせるみたいに言う。
でも、それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
画面の中で、主人公がダメージを受けて倒れる。
リトライ。
登録者。
再生数。
――増えている。
数字だけ見れば、順調だ。
炎上のおかげで、露出も伸びた。
でも。
(違う)
みゅわは分かっている。
この増え方は違う。増えたのは「かわいいから」じゃない。
「応援したいから」でもない。
見張るための数字。粗探しするために登録して次の失敗を待つために通知を入れて、何かあればすぐ騒げる位置に座る。
(気持ち悪)
コメント欄に並ぶのは、「心配です」「見守っています」「慎重にお願いします」
全部同じ匂い。かわいいって言葉は減った。代わりに増えたのは、観察者の目。
――見逃さないよ、ってか。
(みゅわなんて、誰も見てない)
欲しいのは、転ぶ瞬間。失敗。言い訳。そして、「ほらね」。
愛ででもない。ファンでもない。処刑台を囲む客。
それでも数字は数字だ。
……ただの道具だった。
数字を取るため、流行りに乗るための。
それだけの存在だったはずのゆっくりがこんなに大きなものを巻き起こすなんて。
みゅわは正直腹が立っていた。
(なんで?)
たかが饅頭だ。喋るだけで、踊るだけでオレンジをかければ治るって、
みんな言ってたくせに。なのに傷がついた瞬間だけ世界は急に本気になる。
正義の顔をして優しさの言葉を並べて、
「見守る」なんて言いながら。
(都合よすぎ)
炎上したのはこたが可哀想だったからじゃない。
自分が“失敗した側”に回ったからだ。
それだけ。
かわいいものは正しく可愛がられている間だけ許される。
一歩でも踏み外せば、
一斉に石を投げられる。
――それをみゅわは今身をもって知っている。
ただの道具だったはずのゆっくりはもう道具じゃない。
みゅわを縛り数字を歪ませ視線を集め、逃げ場を塞ぐ――
爆弾になっていた。
(……ほんと、めんどくさい)
そう思いながらも画面の外でこたつの方を見ないようにして、
みゅわは次の配信準備を始める。
もう引き返せない場所まで来てしまったのだから。
――ほんと、ムカつく。
あたしを見てないくせに。
あたしの声もネイルも努力も。
全部無視して失敗しそうな瞬間だけ嗅ぎつけて。
正義ぶって。善意ぶって。
胸の奥が空洞みたいに冷える。
――面白くも可愛くもなんともない。
そう思った瞬間画面の中で「GAME OVER」の文字が出た。
みゅわは笑顔のまま配信を締める。
「今日はここまで〜♡ こたちゃんの様子は動画出すから、見てね♡」
マイクを切った途端その笑顔は、音もなく崩れた。
続きます
